映画「ルシアンの青春」あらすじと感想【ネタバレあり】占領下での恋の痛み
1975年公開のルイ・マル監督作品です。
日本で公開されて間もなく、主人公のルシアンを演じたピエール・ブレーズは自動車事故により23歳の若さで他界しています。
公開直前には、ヒロインの祖母役テレーズ・ギーゼも亡くなりました。
ヒロインは現在も息の長い活躍をしているオーロール・クレマン。
音楽にはジプシー・スウィングの開祖ジャンゴ・ラインハルトの楽曲が使用されています。
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あらすじ
1944年6月。
ナチスドイツの占領下にあるフランスの片田舎で、病院の清掃業務についている17歳のルシアン。
勤務が終わり家に着くと、赤の他人が生活していた。
レジスタントの父がゲシュタポに連行され、母は村長の元に身を寄せていると知る。
何もない田舎町の生活で、ルシアンは狩りの腕を上げていた。
射撃の腕に自信を持っている彼は、ドイツ軍に抵抗するレジスタンスのリーダーである高校教師の元に行った。
久しぶりに学校に来たルシアンを教師は歓迎するが、レジスタンスに入りたい、というルシアンの申し出を拒絶した。
断られて不貞腐れたルシアンは病院の仕事に戻るつもりで隣町に行く。
そこで羽振りの良さそうな雰囲気のドイツ兵やフランス人が高級ホテルに入っていくのを、なんとなく遠巻きに眺めていた。
しかしスパイかと問い詰められて窮していると、ホテル内に連れ込まれた。
このホテルはゲシュタポの拠点地となっており、ドイツ兵たちと彼らに協力するフランス人たちが集まる場所だったのだ。
1階のバーで酒を勧められて舐めてみる。
気が大きくなったところで、村の、そしてレジスタンスの内情を聞かれてペラペラとしゃべってしまった。
翌朝、二日酔いの頭を抱えて目を覚ますと、ホテル内にあるゲシュタポの執務室だった。
朝食を用意してもらい、昨夜知り合ったナチス上官のジャンからドイツ警察で働くことを勧められる。
曖昧な態度でいるうちに、レジスタンスのリーダーである教師がホテルに連行されてきた。
ルシアンが昨夜、密告したためだ。
教師は2階に連れていかれ、拷問を受ける。
その断末魔を聞きながら、ルシアンはなし崩し的にゲシュタポ側の協力者となっていった。
レジスタンス側やユダヤ人たちを次々と弾圧し、自分が偉くなったように錯覚するルシアン。
ある日、上官に連れられて服を仕立てに行く。
仕立て屋のアルベールはユダヤ人だが、腕も良く大人しくしていたため見逃されていた。
5日後。
出来上がった服を取りにもう一度仕立て屋に行くと、彼の娘フランスを初めて見て一目惚れする。
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感想
ふ―――…… (長い溜息)
救いがない。
だけど平和なところで場面は終わりにして、キツい部分は文章で、という伝記映画のラストでよくある手法にしてくれたので、まだ良かったです。
17歳という浅はかで無軌道になりやすい年齢に、時代が拍車をかけてしまった不運。
銃を向けて恫喝すれば、大の大人も言いなりになって自分に従う。
これは全能感を持ってしまうでしょうね。
言いたい放題のやりたい放題。
一目惚れした女の子フランスの家にも行きたい放題。
同居人が年老いた父親とさらに年老いた祖母だけ。
しかも立場の弱いユダヤ人なものだから、彼女たち家族の迷惑も顧みず。
ゲシュタポ・ホテルのダンスパーティーに無理やり参加させられるし、部屋にも入り込まれて、はっきり言ってルシアン、疫病神です。
観ていてもう「………馬鹿ガキ」と呆れてため息ついてしまうのですが、未熟な17歳ではしょうがないのかも、と思います。
相手や周りのことなんか考えずに自分勝手な恋の仕方をするのは、結構リアルな恋愛を描いていると感じました。
この映画、恋愛だけではなく占領下の時代のリアルも映し出しています。
狩りのシーンなんかで実際のウサギや小鳥を仕留めているようで胸が痛みますが、食料調達として現実にあったことだと見ると、生きていくためには仕方なかったと思わせます。
ゲシュタポに捕まった人たちが受ける拷問もある程度見せてナチの残虐さを伝えており、当時のユダヤ人たちがビクビクと怯えて暮らしていた心情を追体験する気持ちにさせられました。
本当に観ていて怖かったです。
「捕まったらどんな目に遭うか分からない」という恐怖で胸が苦しくなって、途中で何度も休憩を挟みました。
ルシアンは、そんな彼らの怯えを鼻にもかけない態度でしたが、自分勝手なりにフランスを愛していました。
連行されていこうとするフランスと彼女の祖母を助けようと、突発的にドイツ兵を殺し、彼女たちを連れて無軌道に車を飛ばします。
どこに行くのかも分からない計画性のなさ。
しかもお店の一つもない山の途中なんかでエンスト。
フランスはともかく、足腰がおぼつかないお祖母ちゃんが付き合わされて気の毒(;´Д`)
でもまあ山奥の廃屋を見つけて三人仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
といったシーンで終わりましたが、先に書いたようにテロップが入ります。
愛するフランスが水浴びをしている傍の草むらに寝転んで平和な顔をしているルシアン。
その上に「ルシアン・ラコブは1944年10月12日に逮捕され、レジスタンス側の軍法会議にかけられて死刑を求刑・執行された」の文言。
祖国を裏切った代償の、悲惨な最期が語られます。
シーンと文のギャップが印象的です。
ちなみにフランスとお祖母ちゃんがどうなったのかは言及されていません。
その辺は観客側の想像にお任せ、ということですね。
連合軍の勝利 (=戦争の終結) と同時に前の家に戻れていたらいい、というのが私の願望です。
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