映画「ヒッチコック」あらすじと感想【ネタバレあり】山あり谷あり結婚生活
サスペンス映画の神様と謳われたアルフレッド・ヒッチコック監督の、名作「サイコ」撮影時の苦労や心身の消耗ぶり、プライベートでのイザコザが如何様だったかを見せる伝記映画です。
ヒッチコック役はアンソニー・ホプキンス。
似ている顔立ちではないのに、観ていくうちに本物のヒッチコックのように感じられるから不思議です。さすがの演技力…
妻のアルマ役は「クイーン」で各映画賞を総なめにしたヘレン・ミレンが演じています。
そしてジャネット・リー役にスカーレット・ヨハンソンが配されました。
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あらすじ
1959年。
最新作「北北西に進路を取れ」が封切りとなり、観客動員数も上々で話題にもなったが、新聞のレビューでは各紙に酷評される。
オワコン呼ばわりされるが、創作意欲の尽きないヒッチは、次回作で挽回してやる、と鼻息を荒くしていた。
なかなか、コレ！という題材が現れなかったところ、「サイコ」という小説が悪魔的という書評を見つけて興味を持つ。
実在の猟奇殺人犯エド・ゲインをモデルにしたスリラーで、一読したヒッチは、憑りつかれたようにこの作品の映画化に向けて動き出した。
しかし、あまりにもドギツイ描写が予想されるこの作品に、パラマウント映画社は出資を拒否。
映倫もシナリオを読んで、これはアメリカでは上映できない、と踏む。
そしてエージェントもお金の工面ができず、それでもどうしても「サイコ」を撮りたいヒッチは、邸宅を担保にして自力で制作することに決めた。
仕事上でも有能なパートナーである妻アルマも仰天する。
ヒッチから意見を求められればアイディアを出すが、正直「サイコ」が当たるとは思えない。
アルマは、サイコ制作に燃えるヒッチを尻目に、ヒッチに自分を売り込みたがっている脚本家のウィットと共同で別の脚本を執筆することにした。
ヒッチは主演男優にアンソニー・パーキンス、重要なシーンを演じる主演女優にジャネット・リーを配して「サイコ」の撮影に臨む。
しかし思うように捗々しく進まず、ヒッチはストレスからアルコールに溺れ、横暴な態度が表に出てしまう。
一方アルマもまた、ヒッチがブロンド美人の女優に熱を上げている素振りが面白くない。
その上ウィットからは思わせぶりな態度を取られて、ダブル不倫をしてしまいそうな雰囲気に呑まれないように自分を抑制するが、それが余計にヒッチに対して辛辣な態度になってしまうのであった。
撮影だけでも疲弊しているヒッチは、徐々にアルマの浮気を疑う。
そしてまたアルコールをがぶ飲みし、ついには高熱を出して倒れてしまった。
撮影の遅れは制作費の超過に繋がる。
無理を押してもスタジオに行こうとするヒッチをアルマは押しとどめ、自分が代わりに現場を仕切ることにした。
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感想
「サイコ」でジャネット・リーが演じるマリオンには妹がいます。
その役をヒッチは少々因縁があるヴェラ・マイルズに振りました。
実は以前、ヒッチはヴェラを「めまい」のヒロイン役に抜擢したのですが、撮影直前になって妊娠が発覚し、役を下りてしまったのです。
お気に入りだった女優グレース・ケリーが結婚してモナコ王妃になってしまったため、次のスターにしようと目をかけていた矢先でした。
「サイコ」でも一応ヴェラが演じる役はヒロイン枠なのですが、現場では二人とも互いに反目し合っている感じです。
ヒッチは「せっかくスターにしてやろうと思ってたのにさ」と、アルマ相手に文句ぶうぶう垂れてました。
人を育てたい願望と言うのでしょうか。
誰かをプロデュースすることが生きがいのような方は結構いるのかもしれません。
日常生活ではなかなか分かりづらいですが、もしかして願望を持っている人は多いのかも？
そんなふうに思えます。
映画監督における役者。
スポーツトレーナーにおける選手。
一躍名を馳せたとき、堂々と「わしが育てた」と言わせられる、プロデュースされる側の才能と努力は人を魅了します。
誰でもみんな、心のどこかで「わしが育てた」（ドヤッ）と言いたい願望はあるのかもしれないですね。
光源氏が紫の上を引き取って自分好みに育てた時代からある、人間の欲望なんでしょう（絶対違う）
ヒッチが倒れてアルマが現場に行って帰ってきたあと、二人はお互いの不満を口にします。
ヒッチはアルマの創造力を知っているから、自分の作品を撮るときは彼女に助言を求めるのですが、彼女がウィットと共同執筆した脚本のことは「どうしようもない駄作」と切り捨てました。
どこがダメなのかは納得のいくものですが、だけど嫉妬から辛口になってしまった感じも否めません。
そしてアルマの方も、ヒッチの作品作りにおいてアルマの重要性は高いのですが、どこに行ってもヒッチより一歩下がった位置を歩き、ヒッチに群がる人たちに押しのけられて無視される屈辱に嫌気が差していました。
二人は互いを尊敬し合ってはいるのですが…
片や制作に行き詰まる夫に背を向けて他の作品を手掛けようとしたり、成功を信じず邸宅を取られるときのことを考えて節約を強要。
片や妻もいる前で美人女優の手を握ったり、作品にのめり込み過ぎて妻も手伝ってくれていることを忘れたり。
ちょっと “相手を尊重する” ことをうっかり忘れがちになっているのですね。
それだけ長く一緒にいて相手が空気と同様、自分の傍にいることが自然になっていることの現れだから、悲観することではないのかもしれませんが… やっぱり不満ですよね。
尊敬してくれているのなら尊重もしてほしい。
いや、尊敬していなくても、してほしい。
長く一緒にいると忘れがちになることだから、時々は思い出して。
この言い合いの後、ヒッチはラッシュを見せた関係者たちから散々なことを言われ、アルマはウィットが他の女性と浮気している現場を見て、なんとなく二人とも「あ～あ」というような気の抜けたガッカリ感を纏って話し合います。
「サイコ」は駄作だよ、と呟いたヒッチに、アルマは「まだ編集作業が残っている」と挽回のチャンスを示唆したうえ、「一緒にやるわよ」と率先して動いてヒッチを鼓舞します。
「サイコ」が “サスペンス映画の金字塔” と言われ、後世に残るほどの名作になったことは、御存じのとおり。
ヒッチはこの映画の成功はアルマのおかげだとインタビューに答えて感謝と、そして忘れていた尊重を皆に知らせました。
まさに雨降って地固まる。
ヒッチコック監督夫妻は、ハリウッドでは珍しく、離婚することなく相手と一生添い遂げた夫婦でした。
「円満だったんだろうな」と思っていましたが、それでもこうした夫婦の危機はあったのですね。
この後ティッピ・ヘドレンへのセクハラ問題などもあったようですが。
何だかんだで長い結婚生活では、どんな夫婦にも山があったり谷があったりします。
そこを乗り越えるだけの力がある夫婦には何があるのか。
それをこの作品を通して探ってみてください。
映画制作の裏側を見せる作品はいくつかありますが、映倫とのやり取りや、一番時間がかかると言われている編集作業の風景を見せる作品は珍しいかもしれません。
そうした部分だけでも、かなり興味深く観ることができます。
ぜひ先に「サイコ」を観てからご覧くださいませ。
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