映画「鬼龍院花子の生涯」あらすじと感想【ネタバレあり】父娘関係を考えさせる任侠物
宮尾登美子さんの原作を五社英雄監督で映画化した最初の作品です。
高知・土佐で生きる極道を仲代達矢さん。
その妻を岩下志麻さんが演じ、語り部となる養女を夏目雅子さん、その幼少期を仙道敦子さんが演じました。
他にも大物の俳優・女優が多く登場します。
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あらすじ
昭和15年。
京都の橋本遊郭にてひとりの女郎が死んだ。
彼女から手紙を受け取っていた女性・松恵が駆けつけたときは一歩遅かった。
死んだ女郎の名前は鬼龍院花子。
松恵は彼女の、血のつながらない姉だった。
土佐・高知にて任侠・鬼龍院政五郎こと鬼政の養女に松恵がなったのは大正7年秋のことだった。
子だくさんで、引っ越してきたばかりの実父には後ろ盾が必要であり、そのため弟のひらくと松恵が養子にもらわれることで守ってもらうことになる。
極道の家で縮こまる姉弟に、鬼政の正妻・歌は厳しく接する。
特に返事をしないときは容赦なく平手打ちが飛んできた。
恐怖と寂しさから、ひらくは深夜に逃げ出して二度と戻ってこなかった。
ひとり残された松恵は、実父からも言い聞かされてこの家にずっと身を置くことを決意する。
ある日、鬼政に連れられて松恵は闘犬ショーを見に行く。
そこでイカサマ騒ぎから鬼政は末長組の組長と対立。
子分・兼松の愛犬が殺されたことをきっかけに、末長と一戦交えることにするが、当の組長が逃げてしまっていた。
末長の妻・秋尾が色香で鬼政を懐柔しようとしたが鬼政は惑わされなかった。
しかし廊下で出くわした女中つるを拉致して連れ帰る。
松恵が住む2階の部屋には鬼政の妾たち、牡丹と笑若が暮らしていた。
彼女たちを鬼政の寝所に呼ぶのは松恵の役割である。
牡丹も笑若も素直な松恵を気に入って優しくしていたが、この部屋に新しく入ったつるは皆から距離を置いていた。
意外に気が強いつるは、ある晩、牡丹と共に鬼政の寝所で待機していた。
鬼政は牡丹しか呼んでいない。
つるに事情を聞くと「松恵が呼んだ」と言うので、松恵は「呼んでいない」と反論する。
水掛け論になったので鬼政はつると松恵を向かい合わせにし、殴り合いで解決するように言ってきた。
先に手を出したのはつるだ。
松恵もやり返すが、大人と子供の体格差があり、見兼ねた牡丹が松恵の代わりになる。
自分の代わりで牡丹が殴られていることに胸を痛めた松恵は「自分が嘘をついた」と鬼政に報告して許しを乞う。
そしてその夜の鬼政の同衾はつるとなり、鬼政は嘘をついていたのはつるの方だと見抜いていた。
やがてつるは妊娠し、女の子を出産。
初めての実子に鬼政は大喜びし、花子と名付けて大いに可愛がって甘やかす。
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感想
タイトルになってはいますが、鬼龍院花子は主人公ではありません。
任客・鬼龍院一家の興亡を、松恵の目を通して描いている一大叙事詩です。
それがこの作品の面白いところで、もし花子が主人公だったらこんなに面白くならなかったと思います。
鬼政は子供っぽい男です。
威勢が良く見栄っ張り、キレやすいけど目上には頭が上がらない。
養女の松恵には父親らしい威厳を出そうとするけれど、花子には甘々デレデレのダメ親父になります。
厳しくて怖い女性ではあるけれど、しっかり者で肝の座った歌が鬼政には似合いの妻だったのだと思います。
花子が生まれたことで松恵は花子の面倒も見ることになりました。
歌の影響もあってか、松恵は我慢強くしっかりした女性に育ち、後に小学校教師になります。
反対に花子はオシャレが大好きだけど、ワガママ放題で頭の弱い女の子に育ちました。
この子育ての落差が鬼政の未来を決定づけてしまいます。
下手を打って地元の総取締役・須田に見切りをつけられた鬼政は、気骨あるインテリ田辺を花子の婚約者にするつもりでした。
しかし田辺は松恵を嫁に望み、鬼政は激昂。
次に婚約させた極道の幹部・権藤は結婚前に亡くなり、失望した花子は鬼政をボカボカ殴って詰りました。
愛しい花子を幸せにすることができない鬼政は、怒ることもできず黙って殴られ続けます。
この対比…
自分の思い通りにならないことに我慢がならず暴れる花子は、鬼政とつるが溺愛したゆえの産物でした。
こういった気質に育ってしまった年頃の娘は、仇敵・末長に拉致されても、それを恋愛と勘違いして、助けにきた父のほうを敵として見てしまいます。
一方、田辺に請われた松恵のほうは鬼政の怒りを買いますが、伝染病に罹った歌を献身的に介護し、最後まで鬼政の良き娘でありました。
なんでも買い与えて言うことを聞いてあげていた娘のほうが親を捨て、厳しく当たっていた娘のほうが最後まで親に寄り添う。
現実でもありそうな親子関係に思えます。
花子は自分を助けるために鬼龍院の人間が何人も亡くなったことに思いを巡らせることが出来ない人でした。
ナンパする形で花子を拉致した末長の子分を、身を挺して守ろうとします。
落胆した鬼政は逮捕され、そして2年後に網走刑務所で亡くなりました。
彼が亡くなったことを知らなかった花子は、拙い字で父に手紙を書きます。
松恵が見たその文面は「おとうさん、たすけて」。
件の男に騙され、遊郭で働かされ、鬼政が亡くなってから父の愛情と自分の愚かさに気づいたのだと分かる手紙が、身につまされます。
有名になった「なめたら、いかんぜよ!」は、それまで極道一家にいながらそれに染まっていないように見えていた松恵のセリフです。
真面目に生きてきた彼女のほうが鬼龍院の矜持・精神を受け継いでいました。
お嬢さまとして蝶よ花よと可愛がられた花子のほうが、鬼政の実子でありながら、芯の通った強さを持つことが出来なかった。
それが彼女の死を早めてしまったのだと感じます。
任侠物でありながら「親子関係とは」を考えさせられる作品でした。
映像の華やかさも相まって面白かったです。
それにしても、夏目さんこの当時まだ20代前半…
父母に従順な淑女の面がありながら、件の啖呵ではゾクゾクする迫力があります。
今の20代前半でこの演技が出来る人って、誰かいるかな…?
返す返すも早世したのが惜しい名女優だと思いました。
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