映画「西鶴一代女」あらすじと感想【ネタバレあり】流されてジェットストリーム
1952年公開。
井原西鶴の浮世草子「好色一代女」を、溝口健二監督が映画化。
田中絹代さんを主演女優に迎え、周囲に翻弄されて流転の人生を歩む女性の一大叙事詩を描いています。
溝口監督独特の長回しとカメラワークは、フランス・ヌーベルバーグの巨匠たちにも影響を与え、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞しました。
「世界のミフネ」こと三船敏郎さんや宇野重吉さんなどの有名どころも出演していますが、主役級の人たちなのにこんなに少ない出番でいいの?(;・∀・)とびっくりです。
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あらすじ
夜鷹をしている年配の女・お春。
ろくな客もつかず、ふと入ったお堂で圧倒する数の仏像を目にする。
眺めていると、そのうちの一体の顔が昔好きだった男・勝之介の顔とオーバーラップした。
13歳の頃、御所でお勤めしていたお春は、身分の低い勝之介に恋い慕われ、情熱的に口説かれる。
突き放そうとするのだが、その情熱は抗いがたく、お春は勝之介を受け入れた。
しかしすぐに役人がやってきて二人をひっ捕らえる。
身分違いの恋をした罪で、お春は両親と共に洛外追放の処罰を下された。
そして勝之介は斬首。
追放先で遺言を聞いたお春は泣き叫び、後を追おうとするが母親に止められる。
その頃、いまだ世継ぎに恵まれない大名・松平の側室を見つけるため、家老が町の女性たちを見繕っていた。
殿の要求する女性像は非常に細かく、なかなかコレという女性が見つからない。
そこへ小唄や舞を舞台で披露するため各地を回っている良家の娘たちの集団が目に入る。
家老はそこにいたお春に目をつけて両親を説得。
お金に目がくらんだ父は喜んでお春を差し出した。
城中に連れてこられたお春は、殿の覚えもめでたく無事に後継ぎとなる男児を出産する。
しかしお乳をあげる間もなく取り上げられてしまった。
父親は、後継ぎを産んだお春が出世すると見越して散財し、借金を作る。
出産後もお春を気に入っている殿は、ずっとお春の部屋に入り浸っていた。
そのため家来たちは、殿が日に日にやつれていく様子を見て、お春に暇を出す。
父は実家に戻ったお春を責めた後、借金返済のために島原 (京都の花街) に行くように頼み込んだ。
島原で太夫になったお春は、成金の男に身請けを請われる。
だがその男は贋金作りの犯罪者だった。
結局身請けされる前にその男は役人に捕まり、お春も廓を出る。
商家の住み込み女中となり、夫婦からも可愛がられた。
ある日客に島原で働いていたことを見抜かれ、旦那からは好色の目で見られ、おかみからは理不尽な嫉妬を向けられて髪を切られる。
おかみにささやかな復讐をして商家からは逃げ出した。
そして真面目な扇屋・弥吉の妻となり、幸せな日々を送る。
だがある晩、弥吉は強盗に刺殺されてしまった。
この世がイヤになったお春は尼寺に身を寄せる。
同時期、件の商家で丁稚をしていた文吉が、勘定をくすねてお春に幾ばくか持たせていた。
旦那はすぐさま尼寺に乗り込み、お春を罵りながら返済を迫った。
腹を立てたお春は、身に着けていた帯・着物・襦袢を脱ぎ捨てて、それを持って行け、と言い捨てた。
衝立の向こう側に隠れているお春を覗きこみ、旦那はお春を手籠めにする。
そこへ運悪く尼僧がやってきた。
お春の所業を厳しく叱責して寺から追い出す。
行くあてのないお春に、ちょうど商家から暇を出された文吉が、一緒に行こうと誘ってきた。
しかし文吉は、また何かやらかしていたらしく、旦那と役人に捕まって連れて行かれてしまった。
お春はついに乞食となり、寒い中でも外で三味線を弾く生活にまで落ちぶれた。
ある日、道中で松平家の大名行列が見えた。
近くまで見に行くと、駕籠の中からお春が産んだ若君が顔をのぞかせてお菓子に手を伸ばす。
行列が通り過ぎた後、お春は嗚咽した。
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感想
大名・松平のお殿様は正室がいらっしゃいますが、お世継ぎが生まれないため町の娘の中から側室を選ぶことにしました。
派遣されてきたのは御家老さま。
手助けを頼まれた宿屋の亭主は、殿のご希望の娘を御家老から聞いてドビックリ。
年は15~18歳、丸顔で整っていること (ここまでは普通) 、細い目はキライで眉は太くあれ、口は小さく形の良い鼻で穴は小さく…と耳や歯に至るまでパーツの細かいところまで要求。
さーらーに、胴体部分や足のサイズまで細かく決まっており、体にホクロがないことも絶対条件。
おるか、そんな女!
そう言いたいところだけれど、相手はお殿様。
御家老は妥協するわけにいきません。
娘たちを一堂に集めて値踏みします。
25歳の女性に「売れ残り(プイッ)」と言ったり、姿を見ては「ダンゴ鼻」だの「足デカ」だのと、もうね、失礼極まりないです。
なのにテンポが良くて、このシーンは重い映画の中で唯一笑いました。
しかしお殿様、ものの見事に外見オンリーなんですね(;^ω^)
ヴィジュアル面はおっそろしいほど細かく指示しているのですが、内面に関しては一個も要求していません。
ルッキズムへの徹底ぶり 逆にすげぇ
奇跡的ですが、この条件にお春が当てはまって城中に迎えられましたが (そうしないと話が進まないからな) パーツ単位でまで事細かに理想通りの人なんて、もう二次元の世界に行くしかありませんがな。
以前別の記事で「フェチ」について書きましたが、一点主義のフェチと違って全パーツに要求する人なんて、さすがにいないと思うのですが、どうだろ。
理想を持つのは悪いことではないですが、どんなに外見への要求が高くても、三次元には存在しない、と思ったほうがいいです。
あらすじを読まれたらお気づきになるかもしれませんが、このお春という女性は、主体性がなく周りに流されて生きています。
俺の気持ちを受け止めて、と言われれば受け止める。
殿の世継ぎを産めと言われれば城中に行って産む。
島原に行けと言われれば行く。
とにかく人の言うことに振り回されて、内心ではイヤなのに強く断ることが出来ずに、転がるようにどんどん転落していきます。
江戸時代なので、もちろん立場が上の人に逆らえないという事情もありますが、彼女の場合、元々の気質もあるように見受けます。
美人であるがゆえに数奇な運命をたどってしまったというか、とにかく男性にモテるのですが、基本全員ウエルカム。
すぐ言いなりになるんです。
だけど不本意なものだから態度が良くない。
拗ねたり不貞腐れたりと、人のせいにしがちなんですね。
そのくせ捨てられると困るから状況には我慢する。
なんかね、不本意な結婚をして毎日グチをこぼしてるけど離婚はしたくないっていう既婚者に似ているな…と思いました。
お春もなんですが、そういう人は自己憐憫に浸りがちで笑顔が極端に少ないです。
それでますます不幸を呼び寄せている悪循環になっている気がします。
この映画、テンポがいいからお春の人生は急流の川下りのようです。
ただ流されるだけでは滝壺にドボンと入ってしまいます。
藁をも掴んででも急流から抜け出し、地に足をつけて人生の道を歩いていけよ、と思ってしまいました。
お春は流される女性ですが、田中絹代さんは意志が強く、女優としてのプライドを持った鬼気迫る演技でお春を全身全霊こめて演じています。
物腰が優美で、腰や膝の曲げ方が日本画の「美人画」にそっくりで、お春がモテることに説得性がありました。
加えて一つ一つのカットが、まるで絵巻物のようにアングルや配置・動きが計算されていて、どのシーンも目を奪われます。
ストーリーも面白く、見どころもとても多い作品でした。
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