映画「雨月物語」あらすじと感想【ネタバレあり】おうちに帰ろう
上田秋成の原作の中から「浅茅が宿」と「蛇性の婬」を上手くミックスさせて1本のストーリーにした、溝口健二監督の代表作の一つです。
ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を獲得しました。
監督独特の長回しによる映像美と、京マチ子さんの妖しい色気が、怖いながらも魅力的で情緒あふれる和風ホラーに仕上げています。
ホラーというか、怪談ですね。
背筋ゾクゾク系です。
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あらすじ
ときは戦国。
近江の国の片田舎で焼き物を作って生計を立てている源十郎。
荷車に商品を積んで町に売りに行こうとしたところで、隣に住む藤兵衛が、妻の阿浜の制止も聞かず「侍になる」という志のもと、一緒に行くという。
途中で侍に会った藤兵衛はそちらについていき、源十郎は商いのため別方向に向かった。
藤兵衛は上位の侍に、自分も兵に加えて欲しい、と頼んだがけんもほろろに門前払いを喰らう。
家来になりたければ具足と槍を手に入れてから来るんだな、と笑われた。
一方、商いが上手くいった源十郎は、予想以上の大金を稼ぎ、急いで村に戻った。
妻の宮木に喜び勇んで報告し、土産の小袖を渡して満面の笑顔になる。
それから源十郎は「もっともっと稼ぐぞ」とやる気に満ち溢れ、宮木が心配になるほど焼き物づくりにのめり込む。
侍になれなかった藤兵衛がスゴスゴと戻ってきた頃、村に柴田の軍勢が押し寄せてきた。
窯の火を消してしまったら商品として売ることが出来ない。
急いで逃げよう、と宮木に急かされ、後ろ髪を引かれる思いで源十郎は山に避難した。
あらかた略奪された村に戻り、まだうろついている雑兵たちの目をかいくぐって窯の様子を見た源十郎は、売り物として通用すると確信し、再びやる気を出す。
しかし街道を使って町に行けば、また柴田軍の兵に見つかってしまう。
源十郎は妻子や藤兵衛夫婦と一緒に、船で琵琶湖を渡って、別の町で焼き物を売ろうと思いついた。
すぐに出航し陸を目指すが、反対方向から船がやってくるのが見えた。
瀕死の状態になっている船頭がひとり横たわり「海賊にやられた。特に女たちは気をつけろ」と忠告してこと切れる。
不安になった源十郎たちは、妻子を陸地に下すことにしたが、阿浜は聞き入れなかったため宮木と息子の源一だけ船を下りた。
源十郎たちは無事に町について市で商売をすることができた。
焼き物は好評で、売れ行きもいい。
しかも見るからに高貴な女性が大量買いをしてくれた。
若狭と名乗るその女性は、買い上げたものを朽木家の屋敷に届けて欲しい、と源十郎に頼み、源十郎は了承する。
そして分け前をもらった藤兵衛は、止める阿浜を振り切り、さっそく具足と槍を購入して侍のところへ行く。
藤兵衛を探し回る阿浜は、町から外れたところまで来てしまい、落ち武者たちに囲まれて輪姦されてしまった。
藤兵衛が購入した店で彼の行き先を訊く源十郎だったが、店主に分からないと言われて頭を抱える。
店を出たところで、若狭と下女が源十郎を待ち構えており、朽木の屋敷に案内すると言われて、ついて行くことにした。
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感想
焼き物が完売し、信じられないほど稼いだ源十郎は、もっと稼ぎたいという欲が出て仕事に一層力を入れます。
毎日かなりのペースで作品を制作する源十郎に、ろくろを回す手伝いをする宮木は「お金なんかなくても家族三人が幸せに暮らせれば私は満足なのに」とグチをこぼすこともしばしば。
タイミング良く、源十郎が大金を持って帰宅する直前に、宮木は村長から「お金というものはありすぎても不幸になる。何事もほどほどに」と聞かされており、その言葉が気になったのだと思います。
妻子にラクをさせてやりたい。
その気持ちは嬉しいし、真面目に仕事をするいい旦那さんなんですが、明らかにオーバーワーク気味だと見てとれば、やはり心配になるものです。
仕事って、ノッてくると面白くなってくるし、しかもそういう状態になるほど収入に反映されるので、鼻息荒く「よっしゃ、やるぞーー!」とエネルギー大放出で打ち込んでしまうんですよね。
それはよく分かるんです。
お金があれば大抵の望みは叶えることができるし、自分だけではなく周囲の人や困っている人を助けることもできる。
だからお金が原動力となって仕事を頑張るのも当然です。
だけど… 仕事を頑張れるのは健康な体があってこそですよね。
これまでのペースをいきなり崩して前のめりでハードワークに取り組んだら、健康を損ねてしまいます。
せっかく稼いだお金が、過労や体調軽視を原因にした多額の治療費で消えてしまっては元も子もありません。
それと仕事一辺倒になるのではなく、家族と過ごす時間やプライベートを充実させるほうが能率は上がるそうです。
お金は誰でも欲しいし大切ですが、無理のないペースを維持するのが一番ですね。
投資や株で儲けている人も大勢いるでしょうが、まあそれはまた別の話で…(;^ω^)
さて。
お金が欲しいとなれば、自然と “出世がしたい” という欲望も出てきます。
こちらは藤兵衛がその欲に駆られて猪突猛進していきます。
どうしても一旗揚げて侍になりたい藤兵衛は、具足と槍を持っていけばなれる、という言葉をずっと覚えていて、分け前をもらうとすぐに買いに行きました。
藤兵衛にその器はないことが分かりきっている阿浜は必死に止めるのですが、何が何でも侍になりたい藤兵衛は振り切っていきます。
探しにいった阿浜は酷い目に遭ってしまい「女房がこんな目に遭ってでも侍になりたいっていうのかい」と、ひとり涙を流して藤兵衛を恨みました。
そして肝心の藤兵衛は約束通り戦に加えてもらえるチャンスを手にします。
実戦経験がなくへっぴり腰なのですが、自刃した敵の大将に介錯した人物を背後から槍で突き、その大将首を横取りして自分の手柄にして出世しました。
卑怯者なり~ (;´Д`)
いい暮らしがしたい、と思えば当然出世街道を目指します。
でも周囲を犠牲にしたり、器じゃないのに裏街道を使って上に行くのって、幸せなのかなぁ、という疑問が残ります。
藤兵衛がもっとしっかりした人なら、「侍になりたい」という夢に、阿浜も応援したと思うんです。
夢へのチャレンジは悪いことではないのでね。
ただ藤兵衛は基本的にノープランで「行けばなんとかなる」精神なので、阿浜が心配するのも当たり前。
たまたま大将首を持った人を見つけたラッキーと、その人を後ろから襲う卑怯ぶりで出世しましたが…
貫禄ゼロ!(・∀・)
立派な装備をつけて家来もたくさんつけてもらいましたが、ニタついた顔で大盤振る舞いする姿すらチンケ。
やはりきちんとした実力で出世した人でなければ醸し出せない雰囲気ってあります。
(てゆーか、卑怯な小者のオーラを出した藤兵衛役の小沢栄太郎さんの演技力すごい…)
早く出世したい気持ちは分かりますが、正攻法で登らなければメッキは剥げまくります。
まともな人からは尊敬されず、部下になった人もついてきません。
むしろよろしくない輩が近づきやすくなります。
何しろ本人からズルい人間特有の怪しい気配がだだ洩れですから。
出世もまた “急がば回れ” 。
実力をつければお金や栄誉や良い人脈は後からついてきます。
源十郎が宮木にプレゼントする小袖。
若狭が纏う高級そうな着物や、源十郎が作った焼き物。
どれも美しい色彩を施したモノのように見え、モノクロの画面が惜しいと思いました。
カラーでそれらを見たかったですが、ホラー部分の表現はモノクロだからこそ効果的な雰囲気だったので、仕方ないか、と納得です。
居心地の良さから若狭の元に長逗留する源十郎に「竜宮城が楽しすぎて長居しすぎた浦島太郎もこんな感じだったのかな」と想像。
戻ったときに取り返しのつかない状況になっていたという点は一緒です。
楽しく過ごして、もう帰りたくない、と思っても、結局帰るのが一番なんですね。
藤兵衛も阿浜と再会し、侍の地位を捨てて帰郷しました。
こうして関係をまたやり直します。
紆余曲折がありながら、最後は原点に帰る。
人生のリセットは、スタート地点に再び戻ることでスムーズにいくのかもしれません。
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