映画「愛を弾く女」あらすじと感想【ネタバレあり】ベアールのバイオリン演奏姿が本格的
1993年公開。
ロミー・シュナイダーの代表作「夕なぎ」を撮った、恋愛映画の巨匠クロード・ソーテ監督が、愛を拒む男と求める女の複雑な心情を繊細に描いていきます。
主演のダニエル・オートゥイユとエマニュエル・ベアールは当時、実際に結婚している夫婦でした。
共演作も多いので息のあった演技を見せています。
この映画のために1年間バイオリンの猛特訓をしたというベアールの演奏シーンは、その指さばき・弓運び、両方とも見事で目を奪われます。
撮影終了後、もうバイオリンをやっていないのだとしたら、ちょっともったいないな、と思うレベルの凄さです。
あらすじ
バイオリン職人のステファンは、社長のマクシムから、付き合っている女性カミーユを紹介される。
バイオリニストのカミーユは、バイオリンの不具合をステファンに見てもらった。
早急に必要ということなので、ステファンは急いで仕上げることを約束する。
後日、共通の知人・バイオリン講師のラシュームの家のディナーに共に招待された。
カミーユは彼の教え子だったので、彼女らが到着する前にすでに来ていたステファンは、どんな女性かラシュームに尋ねる。
カミーユに興味は持っているけれど、孤独を好むステファンはカミーユに近づこうとはしなかった。
恋愛自体をする気がないのだ。
しかしカミーユを見る視線は熱いものになる。
彼女の同居人兼マネージャーのレジーヌは、ステファンの印象を「寛いでいる姿が感じ悪い」と評する。
だがカミーユの方も自分に熱い視線を送るステファンが気になっていた。
ある日マクシムと会うため工房にやってきたカミーユは、電話中の彼を待つ間工房の中を見て回り、ステファンが弟子らしき青年にバイオリン修理のやり方を手ほどきしているところを見つける。
弟子が帰ったタイミングでステファンはカミーユを招き入れ、二人でいろいろと話した。
ステファンは、カミーユが自分と食事に行きたそうに見えて、少し怖かった。
後日、雨降りにも拘わらずステファンはカミーユのレコーディングを見に行く。
気づいたカミーユは休憩中にステファンをカフェに誘った。
店内ではケンカをしているカップルの席の近くに座ってしまい、ステファンは居心地が悪い。
無口なステファンと違ってカミーユは饒舌に話をするが、相槌すら打たない彼に、自分の話を聞いていないみたい、とふくれっ面になる。
しかしステファンは「聞いてる。君が話している姿を見ていたい」と答えた。
このデートで距離が縮まったと思ったカミーユはステファンに電話して食事に誘うが、ステファンは断る。
避けられていると気づいたカミーユは、レストランで会ったときにステファンを問い詰めた。
幼い頃から他の兄弟たちに比べても周囲からつま弾きにされるくらい陰気で、自分の感情をはっきり表に出さずにそれが陰険だと思われているステファンは、恋愛どころか人付き合いにも消極的だった。
それゆえにカミーユに惹かれつつも、嫌われることを恐れて逆に嫌われるように仕向けてしまう。
カミーユにはそれを見抜かれて「底が浅い」と言われてしまった。
それでもカミーユはステファンが頭から離れず、マクシムに別れを切り出す。
レコーディングの最終日、カミーユは会心の演奏が出来て大満足だった。
全員での食事会はパスし、見に来ていたステファンをデートに誘う。
二人きりの車内で、カミーユはマクシムにすべて話して別れたことを告げた。
そして煮え切らないステファンに「抱いて」と迫る。
しかしステファンは「君を愛していない」と言って拒絶するのだった。
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感想
カミーユのことを宝石や絵画のような、「見て楽しめる美しいもの」という存在にしておきたいステファンは、カミーユからのアプローチを避けます。
そんな自分のことも、カミーユのことも持て余して、唯一の女友達エレーヌに相談しました。
エレーヌはステファンの話から推察し「女は一歩踏み出したら後戻りができない」と指摘します。
カミーユがすでに踏み出していることが分かったのですね。
突っ走る恋愛型の人は、初めの一歩こそなかなか踏み出さなかったりしますが、一旦踏み出すと、猛攻アプローチになりますね。
それが怖くもありますが、勢いに乗ってしまわないとこのまま止まってしまう、という気持ちになるのかもしれません。
やらない後悔よりやって後悔、とよく言いますが、恋愛に突っ走る人はまさにこれです。
後戻りできないと言うより、自分で背水の陣を敷いて前に進むしかない状況に持っていく捨て身の戦いのような恋愛ですね。
だから猪突猛進になります。
何しろ引き下がれないから押せ押せになってしまって、残念ながら相手に引かれることが多いです。
踏み出す一歩は考えながら慎重に。
相手には「好き」という気持ちは匂わす程度にして、はっきり口に出すのは控えておいたほうがいいです。
突進しすぎて自分や方向を見失わないように気を付けて。
ステファンにきっぱりと拒絶されたカミーユは、傷ついて引きこもりになりレジーヌやマクシムを心配させます。
ステファンの言葉はカミーユを打ちのめすのに十分なほど残酷なものでした。
悲しみが怒りに変わり、カミーユはこれまでとは違う、色味の派手なチークと口紅を塗り、アイメイクもクッキリと縁取った濃くて厚い化粧を施します。
そして鋭い目つきで、エレーヌと一緒にレストランにいたステファンの元へ行き、容赦なく彼を罵倒しました。
メイクは自分を綺麗に見せるためのものだけではありません。
隙を見せてはいけない、という武装の役割をします。
特に舐められてはいけない、と思う相手と対峙するとき、スッピンのままの女性はかなり数少ないと思います。
メイクをしている最中も一見冷静に見えますが、内面ではメラメラと炎を燃やしながら戦闘準備をしていきます。
目つきも鋭く真剣そのもの。
女性の真の怖さは、このメイクをしているときに一番出るのではないでしょうか。
そして悲しいかな。
こういった心情のときの女性のメイクは「引き算」が出来ていません。
とかくゴテゴテと塗りすぎる傾向があるんです。
鎧と同じようなものだから厚いほうがいいのでしょうが、かえって滑稽に見えてしまうピエロ的な哀しさがあります。
メイクに気合を入れなければいけないというとき、女性ならたまにあると思うのですが、そのメイクは「引き算」するべきところがないかを、もう一度鏡でチェックしてから戦いに挑みましょう (なんで戦う気マンマンなんだよ)
8か月半後、ステファンはマクシムとも袂を分かち自分の工房を立ち上げていました。
ラシュームは亡くなり、エレーヌも結婚する予定で、ますます孤独になっていきます。
一方カミーユはあれから演奏ツアーにずっと出かけていて、久しぶりにパリに戻ります。
マクシムとよりを戻しましたが、ひたすら仕事に打ち込みバイオリニストとしての名声も上げ、人として女性として一皮むけて成長していました。
現実もそうですが、人を傷つけた側より傷つけられた側の方がその後幸せになっていることの方が多いです。
打ちのめされたことで一旦どん底まで沈み、そこから這い上がる強さが自信につながって人生が開けていくのかな、と考えます。
カミーユはステファンを罵った後、恥の上塗りをしたことで余計に落ち込みますが、それを払拭するために演奏ツアーに出かけることにしました。
やはり何か恋愛以外に打ち込めるものがあると、傷ついても立ち直りは早くなりますね。
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