映画「十二人の怒れる男」あらすじと感想【ネタバレあり】密室劇の緊迫感
密室劇の金字塔と言われているシドニー・ルメット監督の名作です。
どこにも移動することなく、部屋の中の会話だけでストーリーが進んでいく手法の先駆けであり、中だるみなくグイグイ惹き込む力を持った作品。
ラストが分かっていても何度も繰り返し観てしまう中毒性があります。
物語の中心人物となるのはヘンリー・フォンダ。
単発テレビドラマだったこのシナリオの凄さに感銘を受け、自らが製作に名乗り出て映画化させました。
この映画に触発された三谷幸喜さんは、後に「十二人の優しい日本人」というパロディ作品を執筆しています。
あらすじ
夏の暑さが残るニューヨーク。
裁判所・228法廷で、父親殺しの嫌疑をかけられた18歳の少年の裁判が行われている。
ひと通りの証言や弁論が済み、あとは12人の陪審員たちの決定に委ねられた。
無罪なら、文字通り無罪放免で釈放される。
しかし有罪なら、裁判所は情状酌量をせず死刑判決となる。
陪審員室に向かう12人を、被告の少年は不安そうに見送った。
部屋に集まった陪審員たちは、動かない扇風機に文句を言いながら窓を開ける。
夕立になりそうだった。
今夜のナイターを楽しみにしている陪審員番号7番は、早く終わらせて球場に駆けつけたがっている。
陪審員1番が議長として場を仕切った。
もう少年の有罪は明らかだという空気があり、多数決をとることにする。
有罪だと思う人、という問いに11人が手を挙げた。
ただ一人挙手しなかった陪審員8番に皆の注目が集まる。
なぜ無罪と主張するのかと問いかけられた彼は、議論の余地がある、と主張した。
6日間の裁判を通して見聞きしたことから、被告を完全に有罪として見るには、いくつか疑問が残る、と言うのだ。
12人全員が一致した答えにならなければ評決はできない。
たった一人でも違う意見を持てば、評決には至らないのだ。
有罪に挙手した11人は、一人ずつ8番を説得する形で、自分がなぜ有罪だと思うのかという理由を述べることにする。
裁判で示された証拠や目撃証言が完璧なものであることを理由に挙げる人間が多かった。
その完璧さが8番には引っかかったのだ。
目撃者が嘘をついているのかもしれない。
しかし国選弁護人は深く突っ込まない。
違和感を持っている8番は、人の命を左右する以上、話し合うべきだと考えている。
綻びがまったくないと思われた目撃者たちの証言。
すべてが「少年が犯人だ」という方向に向いている状況証拠。
それらのメッキがひとつ、またひとつと剥がれていくたびに、ひとり、またひとりと陪審員たちは主張を無罪に変えていく。
しかし頑なに有罪を主張する人物たちもいた。
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感想
少年は有罪かもしれない。
だけど無罪である可能性があるのならば、とことんまでその可能性を探ってみるべきだというのが8番の主張です。
自分の中で納得できない部分があるなら、それを解消するまで有罪に転じることができません。
裁判の流れに何も疑問を持っていなかったり、周りに流されて有罪にしていた人たちは当然8番を説得することが出来ず、逆に彼が持つ無罪への説得性に徐々に同調していきます。
8番が「曖昧なことをそのまま放って先に進むことを許さない」という信念を持っていたことが、説得に力を持たせました。
セールスをお仕事にされている方はよく分かっていることですが、営業をかけている自分自身が売る商品の良さに納得していなければ顧客は掴めませんよね。
良いか悪いかの確信を持っていない人から勧められても、その品の良さは伝わらないのです。
自分の中で納得ができないまま他人を納得させるなんて不可能ですよね。
人を説得するには、まず自分を説得すること。
納得がいくまで自分自身との対話を試みること。
妙なところでビジネスに通じるものがこの作品にはある、と考えてしまいました
徐々に形勢は逆転していき、ついには有罪主張するのは3人だけになります。
自分の息子との確執から、被告を息子と重ね合わせて八つ当たりのような感情をむき出しにしている陪審番号3番。
スラム街の住人に対して偏見を持ち、敵愾心を持っている10番。
このふたりは、信念はとてつもなく強いのですが、理屈が通じず恫喝で周りに言うことを聞かせようとするタイプです。
反面、陪審番号4番だけは冷静で理知的な人物。
思いがけず少数派になって焦った10番が、被告のようなスラム街で生まれ育った人間は犯罪を平気でするものだと必死に熱弁したとき、他の人たちからそっぽを向かれてしまいます。
4番は「座って口を閉じてろ」とだけ言って黙らせました。
言葉で周囲を説得させる力がある彼を、3番は頼りにします。
しかし4番は一人で戦えます。
彼は、向かいの窓から犯行現場を目撃したという女性の証言に齟齬がないことを理由に有罪を覆しませんでした。
その主張を論理的に話す彼の隣で、3番は腰巾着よろしく「そうだぞ」「俺が言いたかったのもそれだ」など、合いの手のように他の人たちに怒鳴ります。
本人、援護射撃のつもりなのか、親分に仕える子分というか…小物感バリバリ。
で、そんな応援いらない4番は、3番が調子こいて喚くたびに睨みます。
3番にとって自分と同意見の人は味方だけれど、4番は意見が同じでも簡単に味方とは思わない人なんですね。
強くてカッコいい…4番に惚れそう(*´Д`)
自分と同じ意見を持っている人は、考え方も同じに思えて共感するところがあり、自然と味方として見る傾向があります。
だけど、無能だったり問題を起こしやすい味方は敵より厄介だったりします。
ひとりで何かが出来ない人は、どこに行っても必ず自分の味方になる人を探しますが、知り合って日が浅かったり、ささいな理由だけで味方だと思うと、実は違っていることがあります。
あまり安直に敵・味方と分けて一喜一憂しないほうがいいのが現実なんですよね。
4番の姿勢を見習うわ、私。
ストーリーの中心人物は8番ですが、12人の人物造形が非常によく出来ています。
それぞれの個性が際立っているため、密室内では衝突が起こったり、意見の相違があっても休憩時間では穏やかに話したり。
単純に「この人はこの性格」と分かりやすくなっている反面、こういうときには意外な面も見せる、という人間が持つ多面性も出しています。
こういうところがまた何度も観たくなるところなのですが、意外なほどみんな、初対面の人たち相手に取り繕うことなく自身の本性を露悪させています。
もしかしたら初対面ではあるのですが、この議論が終わったら二度と会うことのない人たちだから取り繕う必要性を感じなかったのかもしれません。
ある意味、一番気楽な関係でしょう。
最後に裁判所の外で9番が8番に話しかけて名前を教え合うのですが、連絡先などは交換せず「じゃあ」と言ってそれぞれ別の道に歩いていきます。
感銘を受けても、この先交流することはない。
このとき限りの関係です。
もし会っても、この事件のこと以外に何も共通点がない。そして事件は解決している。
だけど9番は8番のことをこの先忘れることはないんだろう、と思えます。
一期一会の大切さが分かるラストシーンでした。
ストーリーの巧さや、密室でありながら飽きさせない演出など、完成度の高いサスペンス作品です。
次々と暴かれていく矛盾点の指摘に「あー、なるほどー!」と驚嘆する楽しみがあります。
よく考えると、完璧な証言や状況証拠を覆していって、逆に真相から遠のくわけだから、謎が増えることにアハ体験的な喜びを見出すのも変な話なのですが…
実際に被告が父親を殺したのかどうかは分からないまま終わるので(;´∀`)
ただこの作品は、真相がどうであれ陪審員室の中での結論を出すまでが重要、という、これもまた画期的な作り方だな~、と改めて思います。
大抵は真相を暴くところまで見せるのに、あえてやらないところにスマートさを感じました。
答えを導き出しても、答え合わせは必要ない。
今観ても斬新です。
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