映画「美しき諍い女」あらすじと感想【ネタバレあり】真実を映し出すことに意義はあるのか
19世紀フランスの大衆作家オノレ・ド・バルザックの短編「知られざる傑作」が原作です。
この作中に描かれるべき絵画「美しき諍い女」は、ジャック・リヴェット監督が、これより前に撮った作品「彼女たちの舞台」のセリフの中でも言及していたモチーフです。
このことから、監督が並々ならぬ興味を持っていたことは推察でき、そしてエマニュエル・ベアールという逸材を迎えて念願の映画化にこぎつけたのだと考えられます。
その熱意はカンヌ映画祭グランプリ獲得という結果を残しました。
ベアールに対峙する老画家役はミシェル・ピコリ。
その妻をジェーン・バーキンが演じています。
二部構成で約4時間かかる作品でありながら、スピード感がある動的な作品ではないので、人によって好き嫌いが分かれると思います。
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あらすじ
老画家・フレンホーフェルの自宅に、知人のポルビュスを介して招かれた若い画家・ニコラと恋人のマリアンヌ。
フレンホーフェルと妻のリズは、一行を屋敷内やアトリエに案内して、彼のキャンバスを見せて回る。
しかしフレンホーフェルは、もう10年も描けずにいた。
「美しき諍い女」というテーマの大作を、リズをモデルにして描こうと何枚もチャレンジしていたのだが、納得のいくものがどうしても描けずに挫折していたのだ。
“諍い女” という言葉にピンと来ないニコラとポルビュスに、フレンホーフェルは「喧嘩を吹っかけるような、うるさい女」という説明をする。
そこへ読書家であり自作の小説も書くマリアンヌは、“諍い” という言葉に補足を加えた。
そのときフレンホーフェルは、マリアンヌの気の強そうな表情と知的で凛とした佇まいに、彼の中の理想の諍い女像を見出す。
夕食の席で彼はマリアンヌに、絵のためにニコラを捨てられるか、といきなり聞いてきて嫌悪感を沸かせる。
アトリエでも「画家とは真実をその作品に映し出していくものだ」と、半ば喧嘩腰に皆に熱弁を奮っており、常識がなく付き合いづらい人、という印象を、マリアンヌはフレンホーフェルに持っていたのだ。
そんなことは意に介していないフレンホーフェルは、夕食の途中で男三人だけでアトリエに来たときに、ニコラにマリアンヌをモデルに使わせて欲しい、と持ちかける。
フレンホーフェルが描く大作。傑作になるに違いない。
そう確信したニコラは了承した。
そのやり取りを知らないマリアンヌは、帰り際にフレンホーフェルから「また明日」と声をかけられて驚く。
明日来る約束などしていない。
帰り道でニコラに訊いて、男たちが勝手に交わした約束を知って憤慨する。
その夜はニコラを責め立てふて寝するが、翌朝、マリアンヌはニコラに黙ってひとりでフレンホーフェルの自宅に出向く。
モデルになることを受け入れたのだ。
それから五日間。
マリアンヌは、体を酷使するポーズを次々と要求され、人形のような扱いを受けるうちに強烈な自我が覚醒し、フレンホーフェルを圧倒する。
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感想
マリアンヌをフレンホーフェルのモデルにすることを、彼女の意向も聞かずに勝手に了承したニコラ。
ヌードになると分かり切っているのに、と怒るマリアンヌに、「でも、あのフレンホーフェルの作品だよ。絶対傑作になるんだから」と言って懐柔しようとします。
翌朝マリアンヌは、ニコラが部屋にいない隙に、さっさと支度をしてフレンホーフェルの家に行きました。
ニコラの説得に納得したわけではありません。
この先の彼への冷たい対応を見ると、たぶん身勝手さにあえて従うことで、自分のしたことの愚かさを分からせようとしたのだと思います。
それは功を奏し、初日からニコラは心配になってフレンホーフェルの自宅に行き、リズに不安を吐露します。
終わるまで待ってみたり、いたたまれずに帰ったり…
「もうやらなくてもいいんだよな?」と訊いて「明日もあるわよ」と返されて絶望的な顔になったりもしました。
同じ画家として大先輩であり尊敬する画伯のモデルに自分の彼女が選ばれた、ということに舞い上がって、ノリで約束したことを後悔していることが明らかです。
でも自分が仕掛けたことだから、マリアンヌにきつく言うことができません。
あまり深く考えずに安請け合いをして後悔することは実際よくあります。
頼まれたのが自分自身なのであればいいですが、身内や友人などの仲裁として頼まれた場合…
どんなに親しくても答えは保留にしておいて相手の意向をまず尊重するのが大事だぞニコラのアホ、と思いました。
自分の彼女だからって、お前が勝手に決めるんじゃない。
夜も遅くなり、眠気に襲われてきたマリアンヌを一泊させることにしたフレンホーフェル。
リズの案内で来客用の寝室に案内され、その装飾を興味深く眺めたマリアンヌは、アンティーク風のアクセサリーケースに目を止めます。
中にはリズが気に入っているネックレスが入っています。
きっとマリアンヌに良く似合うから着けてみて、と言われますが断りました。
しかしリズは、遠慮しているだけだと思い、後ろからマリアンヌの首にネックレスを着けようとします。
マリアンヌは体をよじってリズを振り払い、「人形じゃないのよ」と声を荒げて拒絶しました。
アトリエで彼女は、フレンホーフェルに手や足を掴まれて彼の任意の位置に無理やり置かされたり、肩や背中を押されて背筋を伸ばさせられたり、まるで人形のようにポーズをとらされています。
フレンホーフェルは、幼い頃に人形を解体して中身を見たことを例えに、マリアンヌを解体することで内面をさらけ出させる、と宣言して過酷なポーズを強制していました。
手足がつりそう、と訴えても「つってから言え」と言われる始末。
アトリエで球体関節人形のような扱いを受けていたところで、リズから着せ替え人形のように扱われた、と過敏になっていたのでしょう。
マリアンヌにとって、意志のない物体扱いは屈辱でした。
夫婦そろって… しかもニコラも彼女の意志は無視して…
辛いし、反発したくなるマリアンヌの気持ちが理解できます。
このあたりの感情の共感がこの作品に惹きこまれる要素だと思います。
五日間。
習作を何枚も描き、イケると思うと次の瞬間にはダメだ、と落ち込むフレンホーフェル。
そしてマリアンヌは、ずっと言いなりになっていることに嫌気が差し、自分が主導権を握って完成までこぎつけさせます。
完成品を見た彼女の表情は、ほとんど動きません。
しかし緊張感が伝わります。
感想を訊きながら肩に置かれたフレンホーフェルの手を、毛を逆立てた獣のように全身で拒否しました。
そのまま飛び出すように宿泊先のホテルに戻ったマリアンヌは、居合わせたニコラの妹に「残酷で非情なものをあの絵に見た」と言って落ち込みました。
見たくないと思っていた。誰にも知られたくなかった。
そんな自分の内面の汚い部分を無理やり引きずり出されて、まざまざと見せつけられた気持ち。
隠していたかった自分の内面を眼前に突きつけられたショックは、かなり強烈で尾を引きます。
「キャンバスに真実を映すこと」そのものが残酷な行為なのかもしれません。
嘘だらけの世界がいいわけではないですが、真実をそっとオブラートに包むことも大切なことなのではないか、と考えさせられました。
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