フランス映画「穴」あらすじと感想【ネタバレあり】ドキュメンタリータッチの緊迫感
原作者ジョゼ・ジョヴァンニの実体験を元にした、ジャック・ベッケル監督の遺作です。
監督の息子ジャン・ベッケルが助監督を務め、看守役のひとりを演じています。
若い頃の写真を見たことないからちょっと自信ないけど、たぶん一番主人公たちの房にやってきていた恰幅のいい看守がそうだと思います。
中川家礼二さんに似てるかも。
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あらすじ
1947年。サンテ刑務所。
それまでいた8号棟の修繕工事のため、ガスパールは11号棟第6房に移される。
移動前の面接でガスパールは所長に好印象をもたらすことが出来た。
やってきた第6房にはすでにマヌー、ボスラン(あだ名は僧正)、ロラン、ジョーの4人が収監されている。
狭い部屋にこれ以上ひとが増えることにマヌーは看守に抗議するが、ガスパールのせいではないので彼のことは受け入れた。
彼らの刑務作業は“紙箱作り”。
狭い部屋に大判の厚紙が積み上げられ、ぐうたらのジョー以外は作業に取り掛かる。
ガスパールに差し入れが届き、受け取りに行った。
房に残った4人は、ガスパールに脱獄計画のことを打ち明けるかを話し合う。
同房である以上、隠し通すことはできない。
4人はガスパールも仲間に引き入れることにした。
戻ってきたガスパールは差し入れを分けようとするが断られる。
さっきまでと違うピリピリした4人の様子に、何かあったのか、と訊いてみた。
しかし逆にガスパールは何の罪で刑務所にいるのか質問される。
ガスパールの罪状は予謀殺人未遂罪。
妻の妹とガスパールがデキていることに気づいた妻が、口論の末に猟銃を持ち出したところ暴発し怪我を負ったのだ。
妻の訴えとメイドの偽証によってガスパールの罪になってしまった。
きっと裁判でも心証が悪く、最低でも10年は刑務所だ。
僧正はそう言って、自分たちもまた刑期が長く、マヌーなどは死刑が待っているのだとガスパールに教える。
そして脱獄計画についてガスパールに打ち明けた。
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感想
本当にただただ穴を掘って掘って掘りまくる映画です。
なのにものすごく面白い!
BGMがまったくないので、セメントを壊すときの大きく響く音に看守が気づくんじゃないかとハラハラします。
穴を掘っていくときや小型のこぎりで鉄棒を切るときの手際も、カット割りなしの長回しで見せていくのがドキュメンタリータッチで、最初から最後までとても緊迫感がありました。
これらの作業の中心はロランなのですが、演じたジャック・ケロディは実際の脱獄犯です。(ついでに言うと原作者も元・脱獄犯)
撮影当時、ガスパール役の人だけが俳優で、他の4人は全員素人でした。
動きや表情、セリフの喋り方も自然で、素人だったとは驚きです。
マヌー役のフィリップ・ルロワはこの作品後も俳優として活躍し、「黄金の七人」「愛の嵐」などに出演。
娘のフィリピーヌ・ルロワ・ボーリューも女優になり「さよなら夏のリセ」に主演します。
この映画、とにかく「手」に注目がいきます。
穴を掘り、瓦礫を取り除く。
犯罪者側の彼らの手際も見事なら、差し入れをチェックする看守の手際にも感心します。
食べ物の類に何か違法なものが仕込まれていないか、ナイフでサッサと切っていき、いかにも毎日何回もこの作業をしています、という自然な手つきです。
こちらは俳優が演じているので、もしかしたら練習したのかもしれません。
そんな手の動きのアップが多いので、特別“手フェチ”じゃなくても、そのスピーディーな動きの美しさに「おおぅ……(*´Д`)=3」とため息漏れます。
いや、むしろ息止めちゃうかも。
映画自体に緊張感があるから。
刑務所が舞台の作品ですが、新人へのイジメとか暴力がありません。
ハリウッドはじめ日本や他国の映画などでもそういうシーンはお約束であるので意外です。
個人主義のフランスならではなんでしょうかね。
他人にわざわざ絡みにいかない。
むしろガスパールに対して全員「気のいい兄貴」みたいな存在です。
だけどどんなに親切にしていても、“釈放”というエサがぶら下がれば……
せっかく外までの道はつながりましたが、ガスパールの裏切りによって4人の努力はムダになりました。
うわぁ… 人間不信になりそうなエンディングですが、でももし自分がガスパールの立場だったら、同じことをしたと思います。
だってせっかく近日中に堂々と太陽の下を歩けるのに、今日脱獄したら捕まって重い罪を着せられるし、逃げ延びてもビクビクしないといけないんだもの。
そりゃあ、悪いけど裏切らせてもらうわ。
もともと脱獄なんて悪いことだし。
胸クソだけど、何だかんだで人間、自分が一番可愛いものなんだな、と改めて思いました。
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