映画「陽暉楼」あらすじと感想【ネタバレあり】炸裂!五社イズム
「鬼龍院花子の生涯」に続く宮尾登美子先生の原作を五社英雄監督が映像化した2作目です。
主演は緒形拳さん、池上季実子さん、そして浅野温子さん。
常連の仁支川峰子さんや佳那晃子さんも登場です。
後に緒形さんの義娘になる仙道敦子さんもキャットファイトに巻き込まれる芸妓役で出ています。
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あらすじ
雪が降りしきる中、娘義太夫の呂鶴と女衒の太田勝造こと「だいかつ」は、まだ乳飲み子の房子を連れて妓楼から足抜けした。
しかし追手に追いつかれ、呂鶴は死亡。
だいかつは追手全員を殺して逃げ延びる。
それから20年後の昭和8年。
房子は、高知・土佐で一番の遊郭「陽暉楼」でも飛びぬけて売れっ子の芸妓・桃若になっていた。
しかし芸事の腕はいいが、愛想がないのが玉に瑕である。
一から彼女を育て上げた遣り手のお袖は、時折そのことを叱りつける。
そんな房子も家に帰れば、後妻のお峰にお金を渡し、盲目の弟にプレゼントを渡す気立てのいい娘だった。
一方、だいかつは大阪に腰を落ち着け、房子と同年代の珠子という元女給を囲っていた。
勝気な珠子は「お父ちゃん」と呼んで慕っているだいかつが、房子の話をするのが気に入らない。
自分だって陽暉楼の芸妓にくらいなれる。
そう言ってだいかつを説得し、陽暉楼まで来てお袖に面通ししてもらった。
しかし芸妓を馬鹿にした態度の珠子に、お袖はその場で不採用を言い渡す。
だいかつと珠子が出口に向かって歩いていたところ、房子こと桃若を先頭に陽暉楼の芸妓たちが揃って目の前まで歩いてきた。
だいかつと言葉を交わす桃若に嫉妬した珠子は、通りすがり際に芸妓たちを「しょうもな」と鼻で笑ってバカにした。
自分への挑発だと桃若は気づいたが、激昂する他の芸妓たちを抑え、珠子を無視して座敷に向かった。
取り澄ました態度がますます面白くない。
珠子はだいかつに、遊郭「玉水楼」に自分を高く売り込んでくれ、と頼み込んだ。
芸妓はともかく、女郎はダメだ。
だいかつは珠子を止めるが、珠子は無断で玉水楼に飛び込んでしまった。
彼女のことは自分の手下・秀次に、世話役として面倒を見てくれるように頼む。
少し前に、中学教師をしている男が自分の女房を100円で売り飛ばそうとしてきたことがあった。
だいかつは金を渡し、明朝7時に自分のところに来るように言っておいたのだが、結局夫婦そろって逃げてしまっていた。
しかしその女房のほうが、大阪の極道・稲宗組の賭場に現れた。
女房は丸子という源氏名をもらい、陽暉楼に入り込む。
丸子がお袖の旦那を誘惑して女将になろうとしている頃、銀行副頭取の佐賀野井という青年に桃若は恋心を抱く。
感想
身も心も、すべてを燃やす生き様を見せる女たち。
プライドを賭けて取っ組み合いのケンカをし、抜きんでるために芸事を磨いて丹念に化粧をする。
客を相手には余裕を持って駆け引きし、惚れた男には余裕なく全力で愛し抜く。
五社イズム炸裂ですな~。
これだから止められん。
そんな全力で惚れた相手・佐賀野井がまたすぐに逃げるヘタレなことも、毎度おなじみながら男の弱さ・ズルさを描いているな~、とニヨニヨしてしまいます。
いい女ほどつまんない男に夢中になってしまうものなんだよ、と言われている感じです。
逃げた男を追うことも出来ず、房子はひとりで子どもを産み、そして父親を佐賀野井と錯覚して縋りつきながら死んでいきました。
強く生きた女性ながら、実は男をずっと求めていたと分かる最期。
だいかつのことを「母を殺した憎い男」と嫌悪しつつ、本当は父親に甘えたかったのかもしれず、母と同様にだいかつの腕の中で息を引き取ります。
「鬼龍院花子」のときとは違い、父のことが嫌いな娘を描いていていますが、やはり父娘関係について考えさせる作品ですね。
房子と大ゲンカした珠子は、勝ち気でわがままな性分ですが、自分に全力でぶつかってきた房子と友情を結ぶ素直さがあります。
房子とは逆にだいかつのことが大好きで、娘としての愛情を持たれている房子に嫉妬。
そして張り合ったり、だいかつの気を惹きたくて芸妓を目指したり女郎になったり…
素直だからこその危うさがあるキャラです。
秀次と結婚して小料理屋を始め、落ち着いたと思ったのですが、最後はひとりぼっちになってしまうラスト。
子供っぽい彼女には、これからの渡世は厳しいもの。
待合室でうずくまるのは、彼女がだいかつに言った「ここから動かない」だけなのではなく「ここから動けない」からなのかもしれない、と思いました。
一度足抜けしているので女郎に戻ることも出来ず、先の人生行路はまったく見えない状況。
大人になり切れない彼女を庇護してくれた人たちはもういません。
残酷なラストです。
上映時間2時間半がちょっと長く感じましたが、五社イズム炸裂で面白かったです。
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