山崎洋子「日本恋愛事件史」~恋愛で日本史を読み解く女性目線の歴史読本
先日「まんが日本史」なるアニメがHuluで配信され、興味を惹かれて視聴しました。
縄文文化から始まり、弥生時代、邪馬台国・卑弥呼の時代…
丁寧に時系列を追い、ラストは明治維新で幕を閉じます。全51話。
基本同じ顔を使い回しているので、前回のキャラとは別人である、と分かるように名前が登場時に出ます。
で、大化の改新の話のとき、中大兄皇子の顔は聖徳太子と同じでした。
妙に正義感に溢れたイケメン好青年、という容姿です。
・・・違和感。
というのも、額田王を大海人皇子から奪ったとかの話を、山崎洋子さんの著作「日本恋愛事件史」で読んでいたから、なんですね。
その本では、中大兄皇子がアニメのような爽やか好青年とは正反対の人物に映っていました。私の脳内では。
それで何年かぶりに、この本読み返してみました。
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「日本恋愛事件史」概要
1993年から1994年まで雑誌「歴史と旅」に連載されていたものを文庫化した作品です。
時系列はランダムで、そのときに著者が書きたかった話を書いています。
女性目線が優先され、カップルでも女性側が主体です。
なので目次のカップルの名前も女性が先にきて、男性は後ろ側。
まれに女性が複数いる場合は男性名が先にきて、後ろに「妻たち」などとつけられていました。
実在の人物たちがほとんどですが、ふたつほど架空の人物の話が入っています。
簡単な内容
最初でもう目当ての額田王と大海人皇子の話から始まります。
横取りするのは中大兄皇子。
権勢をふるっていた中大兄皇子こと天智天皇が催した宴で、大海人皇子への愛を込めた歌を、天智天皇の真横で詠んだ額田王の心情を山崎さんなりの妄想を炸裂させて額田王アゲをしています。
次には額田王とは真逆と思える「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱の母。
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夫である藤原兼家への恋慕を日記にぶつけた非常にジメジメした恋愛。
弱さを出して恨み言をつらつら言う。
そのくせ意地っ張りで可愛げがない彼女に、山崎さんは腹を立てながらも、同性として気持ちがよく分かる、と優しい目線を送ります。
この項の冒頭では、このふたり及び兼家の第一夫人や外の愛人たちの関係性を下世話な女性週刊誌風の見出しにしていて吹きました。
引用すると
「真実を伝えたい——あの藤原兼家氏の第二夫人、上流社会の愛と性を激白!」
彼の冷たさに二十年間耐え続けたわたし
死を思わない日はなかった
いまはただ、仏に手を合わせつつ……
「兼家氏、マスコミを避けて雲隠れ!」
「第一夫人時姫、余裕の微笑——夫はそんな人ではありません」
「第三夫人、涙の独占手記——生まれたばかりの子を亡くし、捨てられたわたし」
( ´ω`)・;’.、ブッ
ゴシップネタも扱う週刊誌の記者や編集者になりたかったらしい。
そして北条政子&源頼朝などの有名どころから、現在大河ドラマ「麒麟がくる」で注目を浴びている明智光秀の娘・細川ガラシャ&夫の忠興、「姦通罪がナンボのもんじゃい」と新聞に夫への三下り半を掲載させた歌人・柳原白蓮&不倫相手の宮崎竜介 (宮崎謙介と空目した。こっちも不倫男だし) などなど、百花繚乱の恋模様を次々と紹介していっています。
ほか今参局&足利義政などは途中から日野富子の話にすり替わったり、大奥のお年寄りまで出世した女性・絵島と芝居見物のときに花形役者で出ていた生島新五郎との「これ恋愛事件じゃないだろう」というものも扱われていました。
個人的には架空のものや「?」となるようなものより、ベタですが静御前&源義経とかやってほしかったかな。
まとめ
この本が描かれた90年代は、ちょっとモラルがおかしい時代でした。
20歳にもなってまだ未経験なんて恥ずかしい、と男性経験がない人が子ども扱い(もしくはモテない人扱い)されてバカにされる。
不倫ぐらいみんなやっている、と既婚者との恋愛を罪悪感なく楽しむ人が大手を振っている。
そんな時代の空気がこの本にもあって、わりと作者自身もこの考えに順応した書き方になっています。
姦通罪があっても不倫の恋をする人を、勇気があると称賛しているし、もっと婚外交渉を女が楽しんでもいいじゃないか、という表現が散見されました。
いま現在、奔放な人たちは蔑まれ、不倫する芸能人・有名人は責め立てられます。
歴史上の恋愛スキャンダルを読みつつ、(今回読み返して思いがけなかったけど) 90年代と今の時代の違いなども比較して楽しめました。
恋愛はどんな大物でも権力者でもヘンになってしまうパワーがあるけど、90年代って「モラルが足りないことが当たり前」という時代そのものがヘンだったんだな~、と改めて思います。
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