映画「若き人妻の秘密」あらすじと感想【ネタバレあり】遺産相続は慎重に
2011年公開。
この2年後に「アデル、ブルーは熱い色」でカンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを、出演女優で初めて受賞するレア・セドゥが主人公を演じています。
透明感のあるヴィジュアルに、惑いを常に持っているような情感溢れる演技に魅了されます。
相手役はオリヴィエ・グルメ。
こちらも「息子のまなざし」でカンヌの主演男優賞を受賞している演技派ベテラン俳優です。
あらすじ
弁護士の夫・ポールが失踪した、と若い女性エーヴが警察に捜索願を届け出に来た。
ポールはある朝、ジョギングに出かけたまま何日も帰ってこず、連絡もない。
彼の個人事務所に行ってみると、もぬけの殻だった。
捜索願は無事に受理されて帰宅すると、数人の男女がエーヴの帰りを待ち構えており、書類を渡してきた。
内容はポールの借金返済の督促だった。
あまりの金額の大きさにエーヴはその場で昏倒した。
病院で目を覚まし、しばし錯乱する。
事情を知ったポールの元上司・ショレーがエーヴを迎えに来た。
ショレーは、元々は法科時代のポールを指導した教授だった。
そして就職活動が難航していたポールを自分の事務所に入社させてやり、ポールが独立した後も何人もの顧客を紹介してサポートしてやっていた、夫婦にとって恩人である。
そして今回の件も耳に入っており、エーヴが入院している間にポールの借金をすべて返済し終え、エーヴの口座に当面の生活費を入れておいてくれている、という。
大きすぎる親切に、エーヴは正直に「見返りを要求されそうで怖い」と告げる。
ショレーは息子、そして後を追うように妻を亡くして孤独な身の上だった。
妻を亡くしたときに自分の人生は終わっているから、と金銭に執着していない。
週末に別荘に行くから、気分転換にエーヴも来ないかと誘う。
その夜、エーヴはふと思い立って元カレ・アレクサンドルに電話する。
エーヴのほうから彼をフッて以来、6年ぶりの交流だった。
近況を訊くと、アレクサンドルも結婚し、子供もいるという。
彼のほうから「友人として会おう」と誘われ、約束のカフェに行くが、アレクサンドルは来なかった。
聞いていた住所を頼りにアレクサンドルの家に行くと、彼の妻が応対に出た。
射るような視線でエーヴを睨む彼女は、もうこれ以上アレクサンドルを苦しめないで、と強く言い放つ。
彼女の肩越しに、バツの悪い顔をしているアレクサンドルが通り過ぎて行った。
エーヴは一度断ったショレーの別荘への招待を受けた。
息子がショレーに思うところがあったまま自殺し、その直後に妻にも旅立たれてしまった孤独を知り、そしてなんの見返りも求めずエーヴに救いの手を差し伸べてくれる優しさに触れ、エーヴはショレーに「好きです」と告白する。
ショレーは驚き、心細さからの気の迷いだと諭してエーヴを拒んだ。
しかし数日後、依頼人が自殺したことでショレーは落ち込んでしまい、エーヴの愛に縋った。
そしてあっという間にエーヴの若い体に溺れる。
心臓に病を抱え、「あと5年も持たない」と死を覚悟しているショレーは、すべての財産をエーヴに譲渡しようと考え、遺言書を作成する。
そのときエーヴは警察から、ショレーについてポール失踪に関する気になる話を聞かされた。
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感想
心臓病で人生の終末期を悟っているショレーは、いまや特に喜びも悲しみも感じずに淡々と仕事をこなして日々を過ごしていました。
愛弟子だったポールが失踪したことで、仕事を持っていないエーヴが生活に苦労するだろうと思っていろいろ面倒をみます。
ポールの借金とエーヴの生活費に大金を支払ってエーヴを戸惑わせますが、自分の財産を相続する人もいないショレーにとって、金銭は執着していないものです。
それゆえ下心なしにポンッと出すことができました。
だからエーヴから告白されたとき、意外すぎてびっくりして断ったわけですね。
それが魅力になるなんて、まったく思っていなかったんですから。
だけど依頼人が自殺してしまいガックリと気落ちしたとき、“よすが” をエーヴに求めました。
落ち込んでいたり寂しい思いをしているときは、誰でも人恋しくなってきます。
それは「もうすぐ死ぬから」と覚悟を決めて、喜怒哀楽の感情に振り回されない生き方になっていたショレーもそうでした。
関係を持ってからエーヴにのめり込んでしまったショレー。
それまでの、人生を諦めきったような無表情から一転、ヤニ下がった笑顔 (申し訳ないけど、ちょっと気持ち悪くてゾワッとした) でエーヴに迫ったり、財産が全部エーヴにいくように公正証書を書き換えたりと、残り少ない人生を生き急ぐようにこの恋愛一筋になります。
警察からの話を聞いてショレーに警戒心を抱いたエーヴの態度に訳が分からず怒鳴ったり縋ったり…
それまでの大人としての余裕もなくなりました。
老いらくの恋、と言っては何ですが、年配の方が若い人相手に恋に落ちると、周りが見えなくなるほど暴走してしまい、周囲から忠告めいたことをされても聞き入れずに一途に貫き通そうとすることがあります。
おそらく久しぶりの恋愛モードに、気持ちに華やぎが出てきたことから、この楽しい気分に水を差されたくないし、手放したくないから自分の持っているありったけのものを相手に上げようと必死になるのではないかな、と考えます。
この心理を利用して “後妻業” を目論む人もいるので厄介なのですが…
(この名称もあり、年配男性とかなり年下の女性という組み合わせのほうが多いですが、逆ももちろんあります。)
年配者のほうも「相手は遺産目当てだな」と分かっていながらも、あえてそれに乗っていると思えるので、「一度きりの人生、最後くらいは好きなように」の気持ちなのかな、とも思います。
ショレーは身内がいないので問題ないのですが、年配者が亡くなったあとの相続関連で揉めることが多々あります。
“恋は盲目” になるのも分かりますが、自分が亡くなった後のことは知らんふりするのではなく、骨肉の争いにならないよう、生前のうちから目配り・心配りをしておいてほしいものです。
それこそ年配者である大人の責任として、綺麗に整頓しておくのが義務のように思えます。
フランス映画では、気候が良いため緑豊かで気持ちよさそうな陽光が差す光景がたくさん観られるのですが、この映画は珍しくそれがなく、ずっと冬の曇り空で木や草も枯れはてています。
それがエーヴそしてショレーの心の寂寥感とうまく合っているのですが、ラストシーンだけ太陽の光が一筋、エーヴの顔に差します。
偶然うまく撮れたのか、それとも照明をうまく当てたのか分かりませんが、新しい道に踏み出そうとする彼女の決意に満ちた顔と相まって、印象に残るラストシーンでした。
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