ゴダール作品「軽蔑」あらすじと感想【ネタバレあり】女が男を捨てるとき

1963年のジャン・リュック= ゴダール作品です。
ミシェル・ピコリとブリジット・バルドーが夫婦役で共演。
フリッツ・ラング監督が本人役で出演しています。
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あらすじ
夫婦間の他愛なくも甘い会話を交わす劇作家のポールと元タイピストの妻カミーユ。
その朝は何も問題はなかった。
ポールは映画プロデューサーのジェリーの招きに応じて映画スタジオにやってきた。
フリッツ・ラングが監督する「オデュッセイア」の脚本を手直ししてほしいのだという。
一通りの説明を聞いてスタジオを出ると同時にカミーユも顔を出す。
赤いオープンカーに乗るジェリーは、カミーユを自宅に招待する。
後ろに人は乗れないので、ポールはタクシーで来い、というジェリー。
カミーユは戸惑って、ならば夫婦一緒にタクシーで行く、と言うが、ポールは遠慮して、自分だけタクシーで行くのでカミーユは乗せていってくれ、とジェリーに言うのだった。
ようやくジェリー宅に着くと、カミーユは不機嫌な様子を隠さない。
話しかけても返事もしない。
ジェリーと何かあったのか?と聞くが、何もない、と答えるのみだった。
手洗いを借りようと室内に入ると、ジェリーの秘書兼通訳であるフランチェスカが泣いている。
ポールは慰めるつもりで彼女に話しかけた。
少し笑顔を見せ、庭に出ていく彼女と別れたところで、入れ違いにカミーユが入ってきた。
ただでさえ不機嫌なところに怒りの感情も見せている。
どうやら他の女性と仲良く話していたことがお気に召さなかったらしい。
帰宅してからカミーユも少し機嫌を直し、新しく買ったという黒髪のカツラを被った姿をポールに見せてきた。
しかしポールは一瞥して「金髪のほうが好きだ」とだけ言って顔を背けてしまう。
カミーユはまたヘソを曲げてしまった。
もうポールが何を言ってもそっけない態度。
撮影のために行くカプリ島には一緒に行くか?と何度聞かれても、「行かない」もしくは「さあね」と答えて、明らかにポールから離れたがっている。
あまりの態度に一度平手打ちをしたら、いっとき軟化したが、彼女の母からの電話に嘘をついたことから再び怒らせてしまい、ベッドを別にされてしまった。
そして彼女はポールにはっきりと「あなたを軽蔑している」と敵意を込めて言うのだった。
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感想
ゴダール作品の中では分かりやすくて、引き込まれました。
どこがどう面白い、とは説明できないんだけど、なんか集中して見ちゃうんですよね。
愛情があっという間になくなり、冷淡な態度に豹変した妻。
そんな妻の変化が分からず、戸惑いながら彼女に縋りつく夫。
ゴダールの実体験が挟んであるというこの描写、とてもリアルです。
なぜ軽蔑されるようになったのか。
カミーユに理由を問うポールですが、彼女は「死んでも言えない」と回答を拒否。
辛辣な言葉をバシバシぶつけるし、ジェリーとのイチャつきをわざと見せるし…
すごく残酷な仕打ちです。
でも多分、本当は自分のそばにいてほしかったときに突き放されたことが悲しくて、それが怒りに転化したのでしょうね。
トドメは多分カプリ島で、ジェリーのボートに一緒に乗ってくれなかったこと。
もしかしたらポールとしては妻の行動を束縛したくない、という気持ちからカミーユとジェリーが一緒に行動することを「いいよ」と言っていたのかもしれません。
でもカミーユからすると、それは愛情の欠如に思えたんだと考えます。
加えて、頼まれればいつでも妻を他の男に差し出すこともしかねない男。
その主体性のなさや軟弱ぶりが軽蔑につながったのかな、と。
ラストはちょっと思ってなかったオチでした。
でもよくよく考えたらゴダールだった。
これまで観た「勝手にしやがれ」だって「気狂いピエロ」だって (あと「女と男のいる舗道」なんかも)、全部最後には “死” が待っていたじゃないか。
なんでこのオチを想定してなかったのか。
ポールに手紙だけ残して、ジェリーと一緒にローマに向かったカミーユ。
その後はホテル暮らしをする、と書いてあり、完全に離婚するつもりです。
しかし彼女たちが乗る車はトラックに潰され…
うつむくカミーユの髪だけが揺れ、手紙のモノローグと重なります。
そして彼女の死を知らないポールは、映画撮影から降りてカミーユを迎えにカプリ島から去ることにしました。
最後まで撮影を続けるラング監督は、故郷に向かって雄々しく剣を掲げるユリシーズの姿を撮っています。
悪妻ペネロペと会いたくないからトロイア戦争が終結してからも10年帰らなかったユリシーズ、というポールの新解釈とこの映画はリンクしています。
やっと故郷に帰ってペネロペに再会するつもりのユリシーズと、カミーユを連れ戻そうとするポールの最後の姿は重なる終わり方です。
だけど実はもう彼女には会えません。
そんな皮肉なオチも含めて見ごたえのある作品でした。
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