映画「イントレランス」あらすじと感想【ネタバレあり】「不寛容」が起こす悲劇 : 4つの物語
“映画の父” と呼ばれたD.W.グリフィス監督の、映画史上に輝く大作映画です。
独立した4つのエピソードを、オムニバス形式ではなく並行で進めていく手法を取り、クロスカットやロングショット、クローズアップなど当時としては斬新な撮影技術を駆使しています。
物語の継ぎ目に挿入される「ゆりかごを揺らす女性」をグリフィス作品常連のリリアン・ギッシュが演じました。
数十万人はいるエキストラの中には、ダグラス・フェアバンクスやドナルド・クリスプ、アシスタントディレクターも務めたエリッヒ・フォン・シュトロハイムなどがいます。
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あらすじ
【現代 (1916年) アメリカ】
秩序を重んじる婦人団体「矯風会」は、地元の工場主ジェンキンス氏の妹に寄付をお願いする。
矯風会に賛同している妹は兄に頼んで多額の寄付を贈るが、工場の収益は減少。
そのため全従業員の給与を10%カットすることにしたためストライキが起こる。
抗議する従業員たちに、工場側は武装した警備員たちで応戦。
この話の主人公「青年」の父は殺される。
青年も、身内を亡くした「孤独な娘」も、ヒロイン「可愛い娘」も父と共に職を求めて都会に行った。
「孤独な娘」はスラム街のボスの女になり、青年もボスの下で働くチンピラになった。
しかし青年は「可愛い娘」と出会い、恋に落ちた彼は足を洗うことにする。
【古代エルサレム】
ベツレヘムでイエス・キリストが生まれた当時、ガリラヤではパリサイ人による信仰が浸透していた。
彼らが道端で祈りを捧げるとき、周囲の者たちは動きを止めなければならない。
しかし数十年後、成長したキリストが、水をワインに変える最初の奇跡を見せて、民衆の信仰心はキリストに傾いて行った。
さらに姦淫の罪を犯した女を助けたことで、戒律を重んじるパリサイ人から危険視されることになる。
【中世フランス】
国王シャルル9世の母后カトリーヌ・ド・メデイシスは敬虔なカソリックである。
新教徒ユグノー派の存在が忌々しい。
しかし王妹マルグリットと、ユグノー派のナヴァール王アンリを結婚させることでこの宗教的対立を解消しようと試みた。
成婚パレードで賑わう街で、ユグノー派の娘ブラウン・アイズとその恋人ラトゥールは愛を囁きあう。
そばにいた傭兵のひとりが、ブラウン・アイズの美しさに魅了されていた。
傭兵の視線に気づかないブラウン・アイズは、結婚を約束した日「聖バルテルミーの祭日」を心待ちにしていた。
【紀元前バビロン】
城門イムグール・ベルの周辺は、商人や農民、多彩な民族たちの往来でいつも賑わっている。
この城門から、女神イシュタールの像がもうすぐ運ばれてくることが、ライバル神ベルの神官は気に食わなかった。
像を一目見ようと集まる人たちの中に、ヒロイン「山の娘」がいる。
はねっかえりの「山の娘」に手を焼いている彼女の兄は裁判官のところに連れて行った。
裁判官に「花嫁市場」に出して伴侶を取らせるように、と言われてさっそくオークションに賭けられる。
そのとき、父王に変わって統治をしているベルシャザール王子が通りかかり、「山の娘」を自由にしてくれた。
恩義を感じた「山の娘」は、ベルシャザール王子への忠誠を密かに誓う。
そして、ベルの神官と通じていたペルシャのキュロス王が、バビロン攻略に動き出した。
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感想
アメリカ編以外のエピソードは、他宗教を認めない「不寛容」がもたらす悲劇を描いています。
ユグノー派を虐殺した「聖バルテルミーの大虐殺」。
女神イシュタール信仰が自分の地位を脅かすと恐れるベルの神官。
キリストの存在を恐れるユダヤ教系のパリサイ人。
現代だけは、自分たちの考える秩序を押し付けるキリスト教の婦人会の横暴です。
エルサレム編が一番短いのですが、寛容の表れであるキリストと、キリスト教の一派である現代の矯風会の不寛容を対比させている構図が面白いものです。
〇水をワインに変えたキリスト → 飲酒は風紀を乱すとしてパブやカフェを閉店に追い込む矯風会 → 禁酒法時代へ突入し密売や闇市が横行して余計に風紀乱れる
ちなみにワインは神が人に与えた飲み物だし、ギリシャ神話でも酒と豊穣の神ディオニュソスがいますね。
〇姦淫の罪を犯した女を石打ち刑から助けたキリスト → 娼館を廃止した矯風会 → 街娼が増えて余計に風紀乱れる
・・・ (;^ω^)
今でも矯風会ってあるらしいから言いづらいけど… ギャグですか?やってること。
迷惑千万で石頭の御婦人方は「可愛い娘」にも牙をむきます。
青年が足を洗うことを許さなかったボスは、彼に濡れ衣を着せて刑務所に収監させました。
青年の子どもをひとりで産んだ「可愛い娘」ですが、犯罪者の子どもだとして取り上げてしまうのです。
矯風会の不寛容に端を発した不幸の数々が、どんどん彼女や青年を追い込んでいくんですよね。
ボスに返却した拳銃がボス殺害の凶器に使われたり、たまたま持っていたウィスキーで飲酒を疑われたり、親切な隣人から食事をもらっただけで男関係が乱れていると誤解されたり…
伏線や話の動かし方がとても上手いエピソードです。
そしてラスト近辺では同時進行の妙が活きています。
死刑執行当日に真犯人が分かり、執行停止のために刑事と共に汽車に乗った市長を車で追いかける「可愛い娘」 (頑張れー!)
連合軍になったペルシャの大軍が押し寄せることを、王子に知らせるために必死で馬を走らせる「山の娘」 (頑張れー!)
大虐殺が始まり、危険が迫るブラウン・アイズ (逃げてー!)
どれもハラハラした状況になり、目が離せませんでした。
バビロン編もフランス編も、セットや衣装、小道具類なども凝りに凝っています。
特にオープンセットで組まれたバビロンの都市は有名で、解体費用がなかったために映画公開後も10年ほどハリウッドの名所になっていたそうです。
本当に細かいし頑丈だし壮大だし、すごいクオリティのセットで瞠目しました。
一度でいいからこの中歩いてみたい~、と思いましたわ。
バビロン編は戦闘描写も激しく、アクション映画としても通用します。
3時間近くある作品ですが、どのエピソードも見ごたえがあってすごく面白かったです。
とんでもない名作に触れた、と思いました。
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