映画「ビッグ・アイズ」あらすじと感想【ネタバレあり】心の隙間に眩しいゲス・スマイル
2014年公開。
60年代、アート界を揺るがせた一大スキャンダルを、鬼才ティム・バートン監督が映画化。
主演のエイミー・アダムスがこの作品でゴールデングローブ賞主演女優賞 (ミュージカル / コメディ部門) を獲得しました。
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あらすじ
マーガレットは、娘ジェーンを連れて横暴な夫の元から逃げ出し、親友ディーアンが住んでいるサンフランシスコにやってきた。
働いた経験がなく、シングルマザーというハンデがあるが、絵を描くことが得意だったため、なんとか家具製造会社でベビーベッドにイラストを描く仕事に就くことができた。
そして休日は公園で似顔絵師として出店を出し、幾ばくかの収入を得る。
そのとき、隣で風景画を売っている男性の陽気な営業トークが耳に入る。
気になって見ていると目が合った。
彼はマーガレットの元にやってきて、彼女が描く、目の大きい子供の絵に興味を示す。
ウォルター・キーンと名乗る彼は、不動産業を営む日曜画家で、パリの美術学校で技法を学び、一貫してパリの町並みを描いていた。
二人は急速に距離を縮めていき、元夫からジェーンの養育権を奪われそうになったとき、ウォルターからプロポーズされて結婚した。
ハワイで式を挙げ、その色彩の素晴らしさに感動するマーガレット。
結婚した証に、マーガレットは自分の絵に「KEANE (キーン) 」と新しい名字でサインした。
ウォルターは馴染みの画廊に自分とマーガレットの絵を展示してほしい、と持っていくが取り付く島もなく断られる。
仕方なくバーの片隅、それもトイレに続く細い通路で展示させてもらう。
関心を示す人は少なかったが、マーガレットが描いたものが1枚だけ売れた。
カウンターで落胆していると、オーナーが絡んできたので、激昂したウォルターは、思いがけずマーガレットの絵が描かれたキャンバスで殴ってしまう。
その写真が新聞の一面に載ってしまい、オーナーの頭で突き破られた絵は評判になり、展示していた絵が全部売れたのだ。
ただしマーガレットの絵 <ビッグ・アイズ> シリーズのみ。
記者からのインタビューで、ウォルターは思わず自分が作者だと名乗ってしまう。
絵が売れてお金が手に入り、ウォルターはマーガレットにもっと描くように鼓舞する。
評判になったことが嬉しくて、マーガレットは制作に意欲を出すが、新作を持って画廊に行くと、ウォルターが作者だと周囲に触れ回っていてショックを受ける。
マーガレットは彼に言い包められてゴーストペインターとして次々と制作をさせられ、ウォルターはメディアにどんどん出て <ビッグ・アイズ> を自分の作品として売り込んでいった。
3年後には豪邸に移り住むくらいにまで儲かるが、描いても描いてもウォルターの手柄にしかならないこと、そしてジェーンやディーアンにまで嘘をつき続けることに、マーガレットは憔悴してきた。
ウォルターはどんどん横暴になってきて、自分の名で発表したがるマーガレットを脅してくる。
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感想
前夫のところから娘をつれて逃げ出したはいいけれど、先のことはノー・プランだったマーガレット。
子どもを育てなければならないため、必死に働きますが、先行きは不安です。
そんな心のスキマに入り込んだのが、口八丁手八丁のウォルター。
実は彼が描いたという触れ込みの風景画も別人が描いたものでした。
ディーアンからも、ウォルターは女流画家に次々と手を出す男だという噂を後に聞かされます。
結婚前から結構な嘘つきでゲス男だったのですね~。
演じているクリストフ・ヴァルツが作るゲス・スマイルが輝いています。
本当に笑えるくらいゲスいです、この顔ww
ウォルターは言葉巧みにマーガレットに近づき、結婚までこぎつけました。
でもどうやら最初は「風景画が自分 / ビッグ・アイズが妻」と分けて販売しようとしていたみたいです。
だけど話題性の大きさに飛びついてしまいました。
風景画のときと同じく「人が作ったものを自分が作ったと触れ回って有名人になって儲けてやる。佐村河内は私の仲間」というふうになったのだと思います。
ウォルターは、営業マンもしくは宣伝マンとしてはかなり有能なのだと思います。
調子がよく軽薄ですが、人をその気にさせる話術を持っています。
絵そのものが売れないとき、無料のチラシをみんなが持っていくことに目を付けて有料にしたり、新聞記者と組んで世界各国の要人やセレブに絵を贈ることで宣伝効果を狙ったり、儲けを出すための鼻が良く利くんです。
ゲス・スマイル全開で眩いばかりです。
いいよ~、ウォルター! 小者系悪役の鑑だよ~♪
さて、前夫との結婚生活に破れ、娘も育てていかなければならない先行き不透明な生活に怯えるマーガレットに、このゲス・スマイルは心を潤わせたことと思います。
人間、心が弱っているとゲスい人間に心を許してしまい、ゲス・スマイルを「なんて素敵な笑顔」と勘違いしやすくなります。
精神が疲れているときに、陽気に明るく近づいてきた人は、少しばかり時間をかけて人となりを見極めてからお付き合いしたほうが良いかもしれません。
長年、ウォルターの影武者として <ビッグ・アイズ> シリーズを描き続けていたマーガレットですが、自分の作品として堂々と発表したいという気持ちが常にあり、反発心から画風を変えてみたりしました。
サインについても <KEANE> にしたせいでウォルターに、「僕も君もキーンなんだから、ぼくが描いたことにしておけばいいんだよ」と良いゲス笑顔で高らかに言われます。
なので新しい画風のほうはサインも変えています。
マーガレットはまず出来る範囲から少しずつ日陰から日の当たる場所に行こうと試みました。
誰だっていつまでも日陰にいるなんてイヤです。
暗くてジメジメしてるし、なんかカビ生えてるし、頭からキノコ生えたし…
佐村河内氏の影武者だった新垣隆さんも、マーガレット同様、表に出てきました。
いつまでもゴーストでい続けるなんて、さぞイヤなことだったと思います。
「日陰の身」というと、既婚男性の愛人をしている女性のことも指しますね。
最初のうちこそ「それでもいいの」と言っていた人でも、年月が経つうち「やっぱり日向に行きたい」という気持ちが膨れ上がることは想像に難くありません。
日の当たる場所に出てきたとき、どんな人生を歩むかはその人の行動しだいですが、日陰にいたときとは景色が違って見えるはずです。
ゴーストになるのは死んでからで十分です。
生きている間は、誰かのゴーストもしくはそれに近い存在にさせられるのではなく、堂々と自分をアピールしていいと思います。
この映画公開当時、実在のマーガレットさんは87歳でした。
作品の中にも、ベンチに座っている老婦人の役で出演していました。
オフショット写真がいくつかありましたが、穏やかな笑顔を浮かべた品の良いお婆さんという感じです。
正直ビッグ・アイズは、ホラーっぽくて怖いという印象を私は持ったので、作品とご本人のイメージが違う方なんだな、と思ったのですが…
映画評論家の町山智浩さんが直接ご本人にお会いして当時のお話を伺ったそうです。
マーガレットさんは、ずっと「寂しい」と思いながら描いていたと言いました。
その内面の孤独感が、描く絵に投影されていたのですね。
暗い影が落ちた表情を持つ、大きな瞳の女の子たちの絵は、彼女の心のSOSだったのかもしれません。
その危機を脱した今、彼女のビッグ・アイズの表情からは暗さが取れたように見えました。
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