映画「善き人のためのソナタ」あらすじと感想【ネタバレあり】報われる陰徳
アカデミー賞はじめ各映画賞で「外国語映画賞」や「最優秀作品賞」を受賞したドイツ映画です。
「ツーリスト」のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の長編一作目になります。
主演は「スパイ・ゾルゲ」のウルリッヒ・ミューエ。
「ダイ・ハード /ラスト・デイ」のセバスチャン・コッホ、「マーサの幸せレシピ」のマルティナ・ゲデックらが共演しました。
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あらすじ
1984年。
東ベルリンでは国家保安省 <シュタージ> による監視国家が築かれていた。
10万人の協力者と20万人の密告者が独裁政権を支えている。
西側に逃亡する者、それに協力した者、国家体制に批判的な者などは囚人として尋問を受けたり、危険人物として監視される。
国家に忠誠を誓うシュタージのヴィースラー大尉は、誇りをもって仕事をしていた。
ある日、同僚のグルビッツ中佐に、仕事関連と聞かされて劇場に誘われる。
かつてシュタージで、反政府側の演劇人を一掃したヘルプフ大臣もいた。
芝居を観たヴィースラーは、この劇作家のドライマンを監視対象に入れようと提案する。
ヘルプフからも命令されて、グルビッツは従うことにした。
来週彼の家で行なわれるパーティーに、反体制派のハウザーが参加するということで、盗聴器を仕掛けることになった。
舞台の打ち上げに参加したヘルプフは、ドライマンの恋人で主演女優のクリスタを愛人にしようと考えている。
ふたり一緒のところを話しかけ、かつて一掃した中の演出家イェルスカの復帰をドライマンに頼まれるが、聞き入れる気は皆無だった。
翌日、ヴィースラーは早速ドライマンのアパートの部屋に盗聴器を仕掛けた。
最上階はワンフロア丸ごと屋根裏部屋になっている。
そこを傍受するための部屋にし、ヴィースラーは交代制でここに通う。
週が開け、ドライマンの誕生日パーティーが彼の部屋で行なわれた。
イェルスカから誕生日プレゼントに「善き人のためのソナタ」の楽譜が贈られた。
ヴィースラーは傍受しつつ、クリスタがヘムプフの手に落ちたことも知る。
次第にヴィースラーはドライマンに感化されはじめ、イェルスカの自死にショックを受けたドライマンが弾くピアノ演奏「善き人のためのソナタ」で涙を流す。
しかし、ドライマンが国家を裏切って「東ベルリンの自殺者数」に関する記事を西側に伝えようとしていると知ってしまった。
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感想
ドライマンの生活を盗み聞きしているうちに人間らしい感情が芽生えてきたヴィースラー。
ドライマンが読んでいる小説を読み、クリスタと愛し合っている声を聞けば自分も娼婦を呼んで愛を欲します。
そして美しいピアノ演奏に感銘を受け、この現体制下でさまざまな才能が潰されてきたことを嘆くドライマンに共感するようになりました。
ドライマンの、才能と幸せを見守っていきます。
演劇を守るためにヘルプフのところに行かなければ、と追い詰められるクリスタに、一ファンという形で話しかけてドライマンの元に帰らせたり…
これだけでもヴィースラーにしてみれば勇気ある行動です。
政府高官を裏切っている行為であり、それは東ドイツの体制そのものを裏切っていることになるからです。
忠誠を誓い、人として良かれと思っている自分の仕事への信頼が揺らぐヴィースラーの変化。
劇的に急変するのではなく、ゆっくりと心境が変わっていく様子にとても興味深く惹かれます。
イェルスカの自死で奮い立つドライマンに焦り、シュピーゲル誌と組んで東ドイツにとって都合の悪い記事を書こうとしている彼に憤るけれど…
ヴィースラーはドライマンたちの行動に目をつぶることにしたのです。
ドライマンたちの国家への背信行為を黙殺することで、自身もシュタージを裏切るヴィースラー。
そしてドライマンの元に戻ったことでヘルプフの怒りを買って逮捕されたクリスタは、ドライマンが隠し持っているタイプライターの在処を言うように強要されます。
それぞれに板挟みで苦しむ三人の行く末がどうなるのか気になって目が離せませんでした。
クリスタが亡くなり、ヴィースラーは閑職に回され、ドライマンは何も書けなくなります。
そしてベルリンの壁崩壊から2年。
再会したヘムプフから、自分も実は監視対象だったと初めて知ったドライマンは当時の監視記録を閲覧します。
そこで自分を監視していた <HGW XX7> ことヴィースラーが、肝心なことをあえて書かなかったことで自分を守ってくれていたことを知るのです。
そしてさらに2年後。
ドライマンは執筆できるようになっており、新作の本が出版します。
本屋のウィンドウポスターを見たヴィースラーはその足で本屋に入り、その本を手に取りました。
タイトルは「善き人のためのソナタ」。
献辞に「<HGW XX7>に捧ぐ」と書かれていました。
購入の際、ギフトラッピングを聞かれたヴィースラーは「これは私の本だから」と言って断ります。
その満足気な表情を見て、不意に涙がこぼれました。
「陰徳」という言葉を思い出しました。
誰知れずひっそりと善行を積むことです。
ヴィースラーは恩返しを期待したり下心を持ってドライマンを助けたわけではありませんでした。
ただただ彼の幸せを願い、そのために自分に出来ることをしたまでです。
だからドライマンは記録を読むまで知らなかった。
見えないところで自分を助けてくれる人がいたことに。
そして知った今、スランプを超えてヴィースラーのために本を上梓。
彼を救うために閑職に回されて、冴えない毎日を送るようになったヴィースラーが報われるラストシーンに、しみじみとした感動が胸に広がりました。
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