映画「緑園の天使」あらすじと感想【ネタバレあり】牧歌的スポ根ストーリー
1944年公開。
馬を手に入れた12歳の少女が、「グランド・ナショナル」という、イギリスで行なわれている競走馬の障害物レースに、居候の青年の協力を得て挑むスポ根作品です。
主人公は子役時代のエリザベス・テイラー。
愛くるしい笑顔で、無邪気な少女を自然体で演じています。
大人びた顔立ちに、後に “絶世の美女” と謳われる片鱗がすでに見えていました。
青年役のミッキー・ルーニーもまた、落馬した騎手の死を目の当たりにしたトラウマを抱えながら、善人と悪人の狭間に揺れる複雑な人物像を、重くなり過ぎないバランスで器用にこなしています。
主人公の父親役をドナルド・クリスプ。
テレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」の主演で有名なアンジェラ・ランズベリーが姉役で出ています。
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あらすじ
1920年代末。
イギリスの田舎町スールズで暮らすベルベット・ブラウンは、馬が大好きで将来は騎手になることを夢見ている12歳の少女。
明日から夏休みが始まるという日の学校帰り、丘の上でマイという青年と出会う。
馬について詳しそうなマイと話しているとき、ご近所のイードさんの家から脱走してきた馬が丘を駆け回っているのが目に入った。
ベルベットはその馬の美しさに見惚れるが、マイは複雑な表情を浮かべる。
イードさんが必死に捕まえようとする中、その馬はベルベットたちの方へ猛スピードでやってきた。
危険だと制止するマイを尻目に、ベルベットは馬の前に両手を広げて飛び出して馬を止めた。
ようやく馬に轡を嵌めることができたイードさんは、マイにどこに行くのか尋ねた。
マイは、ベルベットの母に会いに行こうとしていたのだった。
ベルベットの母は、21歳のときに、泳いで海峡を渡るチャレンジに成功して一躍時の人となった人物だった。
マイの父は、その母のトレーナーであり、マイは父の死により身寄りが無くなったため、父の住所録に名前があったベルベットの母を頼ってきたのだ。
母とベルベットの後押しで、父の精肉店で働くことになったマイ。
父がマイを信用できずにいる中、マイもお金を盗んで逃げだそうかと何度も逡巡する。
丘を通る道の先まで配達を命じられたマイに、また馬に会いたいベルベットもついていく。
案の定、イードさんの家から例の馬が逃げ出し、丘を走っている。
近くまで見に行くベルベットについて、飼い犬が石垣を乗り越えて馬の元まで駆けて行った。
犬に驚いた馬は、猛ダッシュで駆け出し、着地点が一段低くなっている石垣を乗り越えて町まで逃げて行ってしまった。
ベルベットとイードさんは慌てるが、マイは今の馬の行動を見て、呆然と「ビーチャーズブルックだ…」と呟く。
何のことか聞くベルベットに、マイはグランド・ナショナルでの最難関の障害であることを教えた。
踏み切り地点より着地点の方が低いため、多くの馬がバランスを崩して転倒してしまうのだ。
町まで出てきた馬は、ケガ人こそ出さなかったものの、店先や庭先のものを壊しまくって、ようやく捕まった。
イードさんは弁済金を抱えてしまい、この馬を1シリングで買えるクジの賞品にして手放すことにする。
ベルベットは、絶対自分が手に入れる、と意気込んだ。
名前ももう “パイ”にすると決めてある。
クジの結果、一度は外れたが当選者が現れなかったため、二度目のクジ引きでベルベットが当選した。
見事パイを手に入れたベルベットは、パイの才能を信じてグランド・ナショナルに挑戦することに決めた。
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感想
この作品、ベルベットのお母さんが名言を連発します。
海峡を泳いで渡る、という偉業を成し遂げた人物だからでしょうか。
すごく達観していて、心に迷いがある人たちを上手く導く仏様のような偉大さで描かれています。
お母さんの恩師の息子・マイのことを、お父さんはどうしても胡散臭い目で見てしまいます。
突然、なんの前触れのなく現れたのですから無理もありません。
お金を盗んでトンズラするのではないかと目を光らせますが、ベルベットと同様にお母さんもマイのことを信じています。
もしも本当に窃盗にあったら…?
そう聞かれたお母さんは「悪を乗り越えて良心が生まれる」と口にします。
なるほどな、と思いました。
人間だれしも良心を持っていますが、それは普段意識しておらず、悪の誘惑に勝ったときや、もしくは負けても後悔の気持ちが湧いた時に、初めて自分の中の良心というものが存在することに気づくものですね。
言われてみて改めて、確かにそうだな、と腑に落ちました。
マイはお金を盗んでいくかもしれない。
でもきっと良心が痛んで、返しにくるのではないか、とお母さんは踏んでいるわけです。
まだ大人になり切れていない人の「成長」として信頼し見守ろうという姿勢ですね。
人としてのモラルが問われるときが良心の芽生えのときであり、自覚できたときが大人になったときなのかも知れません。
ベルベットがグランド・ナショナルに出場しようと決めたとき、お父さんもマイも「無理だ」と言って諦めさせようとします。
特にマイは、レースがいかに危険か良く知っており、落馬した瞬間に後続の馬たちにドカドカと踏み潰される騎手もいることをコンコンと説きます。
しかしお母さんは「人生で一度は無茶な挑戦をすることは大切だ」と理解を示し、大切に取っておいた海峡横断のときにもらった賞金をベルベットに渡してレースに参加する後押しをしてくれました。
この恩に報いるためにも優勝してみせる、と興奮気味に話すベルベットに「勝敗よりも、どう戦うのかのほうが大事」と伝えます。
もう言わずもがな、ですね。
卑怯な真似をして手に入れる勝利は、価値のあるものとは言えません。
ならば正々堂々と戦って負けたほうが、悔しい思いはしても自分を誇らしく思うことができます。
勝負ごとに限らず何でもそうですが、誰も見ていない・誰も知らない、だから大丈夫だと考えて卑劣な真似をしたり悪どい行動を取っても、自分自身が見ているものですからね。
罪悪感に囚われるのが普通ですし、もしそういう気持ちが湧かなかったとしても、自分自身を信用できなくなると思うのです。
天網恢恢疎にして漏らさず、と言いますが、本当に天が見ているかどうかは分かりませんが、少なくとも堂々とお天道様の下を歩けなくなる生き方はしたくないものです。
人間は弱いので、悪いことだと分かっていつつも、自分が有利になることへの誘惑に負けることも人生の中では多々あることでしょう。
でもそうした失敗から悔恨や痛手を負ってしっかり反省することが、いわゆる「この世での修行」なのではないかと思います。
人生は勝つか負けるか、ではなく、自分に恥じない生き方をしているか、が大切なのかもしれませんね。
無茶でも無謀でも、やってみたいと思ったことにチャレンジする精神を教えられますが、そのチャレンジの後は、次の段階に踏み出すことを説いてきます。
お母さんの場合は、結婚そして出産・育児と続き、その先は死が待っており、それが自然だとベルベットに伝えました。
レースが終わった後、ブラウン家から去っていったマイもまた次の段階に進もうとしているのだから、それをベルベットが止めることは良しとしません。
どういう結果になろうと、一意専心の気持ちで打ち込んだ後には、やり切った爽快感と共に心にポッカリと穴が開いた何とも言えない喪失感もやってきます。
そのとき、次はどうしようかという自分の身の振り方を考える余裕が出来てくるので、納得のいく方向性を考えて進んでいきたいものですね。
なかなか教訓になる映画でした。
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