映画「ルードヴィヒ 神々の黄昏」あらすじと感想【ネタバレあり】
“狂王” と呼ばれたバイエルン国王ルードヴィヒ二世の生涯を、イタリアの有名貴族出身のルキノ・ヴィスコンティ監督が、美意識を全面に打ち出して絢爛豪華な歴史大作として昇華させました。
主演のヘルムート・バーガーは、ヴィスコンティ監督とは師であり恋人でもある、という特別な関係にあった俳優です。
それが作中のルードヴィヒと作曲家ワーグナーの関係、およびお気に入りの俳優や給仕たちとの関係とリンクしている感じが、この重厚な作品にさらなる深みを持たせているように思えました。
あらすじ
18歳の若さでバイエルン国王となったルードヴィヒ二世。
戦争や政治を嫌い、芸術を好む彼は、作曲家リヒャルト・ワーグナーを賓客として迎えようとしていた。
王位につく前に観た彼の「ローエングリン」に感動して以来、ワーグナーに心酔しきっているからだ。
しかしワーグナーの居所はまだ突き止められずにいた。
戴冠式からしばらくすると、従姉妹であるオーストリアのエリーザベト皇后が近くに来ていると聞いて会いに行く。
宮廷生活を嫌って、各地を旅している自由人のこの従姉妹のことを、ルードヴィヒは恋い慕っていた。
ロシア皇女との結婚話はどうなっているのか聞いてきた彼女に、まだ考えられない、と答えるルードヴィヒ。
一緒に遠乗りに出かけたり、語らううちにエリーザベトも彼の気持ちに応える。
しかし彼女は人妻である。
エリーザベトは妹のゾフィーをルードヴィヒの妻にさせようと、ふたりを引き合わせた。
その仕打ちにショックを受けたルードヴィヒはその場から逃げ出した。
ついにワーグナーの居所が分かり、彼が金銭的に困窮していることが分かると、ルードヴィヒは国庫から惜しみなくワーグナーに援助するようになる。
劇場を作り、そこで上演したワーグナー指揮の「トリスタン」は大成功だった。
これに気を良くしたルードヴィヒは、エリーザベトに会って自慢するが、国庫を浪費していることを厳しく非難される。
そしてゾフィーとの結婚を改めて促され、怒りのままに婚約を了承して母である皇太后に報告する。
しかし気乗りしないため、延長に次ぐ延長で結局婚約は解消となった。
その間、ワーグナーは新聞にコージマ・ビューロー夫人とのスキャンダルを書き立てられ、ルードヴィヒに助けを求めたが、見捨てられてミュンヘンを去ることになった。
ワーグナーひとりのために国庫から莫大な金額が捻出されていることを危惧した側近や大臣たちからの圧力を、ルードヴィヒひとりでは撥ね退けられなかったのだ。
戦争には敗れ、前線で戦った弟のオットーは精神的な病に罹る。
エリーザベトとも婚約解消の件で疎遠になってしまい、孤独を深めたルードヴィヒはどんどん退廃的な生活になる。
城の造営やお気に入りの俳優のパトロン、美青年だらけのハーレム…
国政を省みず国庫を浪費して寂しさを埋めていくのだった。
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感想
エリーザベトへの叶わぬ恋を、ワーグナーへの友情という名の支援で埋めていることをエリーザベト本人に見抜かれてキツく責められるルードヴィヒ。
ルードヴィヒはひとりでいてはいけない、と彼を良く知るエリーザベトは考えていて、誰かの助けが必要なのだから、ゾフィーと結婚しなさい、と命令しました。
あなたしか愛せない、と訴えるけれど、エリーザベトは「愛は義務なの。現実に立ち向かいなさい」と冷たく言い放ちます。
彼女自身、皇女として生まれて、16歳でオーストリア皇帝と義務で結婚して子供を産んでいます。
放浪生活をしていても、皇后として最低限の義務は果たしている、という自負がありました。
「トリスタン」の成功を喜んでくれると思っていたのに、逆にお説教されて屈辱と怒りに満ち溢れたルードヴィヒは、ヤケクソでゾフィーと婚約します。
報告を聞いた母后は急いで結婚の準備をしなければ、と神父に連絡を取ります。
しかし本当は結婚する気がまったくないルードヴィヒはゾフィーをほったらかして、相変わらずワーグナーとイチャコラしている有様です。
さすがにゾフィーも落ち込みます。
どこにも誘ってもらえず、滅多に来ない。
たまにアポなしでいきなり訪問してくるけれど、ほんの少し会話しただけで帰っていく。
いつ来るか分からないから、ずっとこもりきりの生活になってしまった、とエリーザベトに零しました。
それを聞いたエリーザベトは、ゾフィーも悪い、と叱ります。
「なぜ家にこもって彼を待つの。劇場でも旅行でも好きに出かけなさい」と発破をかけました。
ゾフィーたん、私もそう思うよ…
いつ来るか分かんない人。平気で人を待たせる人。
こっちもほっといて好きなところに行くほうが、自分の時間を大切にできるし、逆に向こうを反省させたり翻弄させたりして自分に惹きつけることができるんですよね。
だけど、そう割り切れない気持ちも良くわかります。
気持ちはなかなか…ね。
待つ苦しみから、少しずつでもフェイドアウトできるといいですね。
戦争に敗れた報告を受けたルードヴィヒですが、早く終わって良かった、と前線で戦った人たちには無神経なことを言います。
そして王位をオットーに譲ろうという考えを持っていることを大佐に伝えました。
自由でいたいという気持ちが強く、その信念と行動を一致させるために戦争から背を向けたのだ、と弁解します。
欺瞞ではなく真実に生きたいのだ、と聞かされた大佐は、控えめながらはっきりと、それは本能と欲望に忠実に生きるということだと諭します。
ルードヴィヒは今、義務を無視して幸福を見出したと錯覚している状態であり、この考えについて行けるのは、道徳的束縛がなく、快楽を自由だと解釈している者だけだと指摘。
詐欺師や、人を食いものにする卑しい者を遠ざけるべきだと苦言を呈しました。
実際ワーグナーはルードヴィヒを食いものにして音楽家としての成功を手に入れましたが、彼に何も恩返しをしていません。
その他に寵愛を受けた者たちも、ルードヴィヒからもらうばかりでリターンは皆無です。
自分の人生をより良いものにしたいと願う人は、こういう人達と付き合わない慎重さを身に着けています。
人を疑うことに抵抗があるかもしれませんが、裏の顔が見えたら離れるのが正解です。
人生を大切にしていきましょう。
シンデレラ城のモデルになったノイシュバンシュタイン城を建築したのもルードヴィヒです。
ロマンチック街道の終点として、旅行パンフレットに写真が頻繁に載せられていますね。
国庫を浪費した道楽のひとつでしたが、今は観光資源として、そのときの出費を埋め合わせられたと思います。
人物像はともかく、ワーグナーには代表曲に上げられるものが何曲もあり、今現在でも愛されています。
税金からいろいろ贅沢されて、当時の政治家や国民は眉をひそめたと思いますが (実際クーデターが起きますし) ルードヴィヒ二世が香り高い文化を残した業績は評価したいところです。
ストーリーも面白いですが、一切妥協をしていない豪奢な衣装や宝石類、内装や調度品は観ているだけで圧倒されてため息が出ます。
王冠が本当に重そうで、被らされたゾフィー役の女優さんの首を本気で心配 (;^ω^)
それにしても深紅って、すごく高級感を演出する色だなぁ、と改めて認識しました。
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