宮部みゆき「火車」あらすじと感想【ネタバレあり】借金こわいマジこわい
パソコンのメンテナンスのため強制休養となった二日間。
久しぶりに本でも読もうと本棚を漁りました。
度重なる引っ越しで小説などの本は結構な数をブックオフに持って行ってしまっていたので、棚の中は悲しくなるほどスッカスカ それに比例して脳みそもスッカスカ♪
宮部みゆきさんの作品は読みやすい文体と惹きこませるストーリー展開が大好きで、一時期買い漁っていたことがあります。
しかしそのほとんどを売ってしまった今、「火車」だけは手元に残しておきました。
宮部作品のなかで断トツの衝撃度と面白さで、初めて読んだときページをめくる手が止まらなかったことを覚えています。
今回数年ぶりに読み返し、もう展開は分かっているのにやっぱり夢中で読みました。
それでも二日では読み切れなかった…無念orz
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あらすじ
脚の負傷により休職を余儀なくされている刑事・本間俊介のところに、遠縁にあたる栗坂和也が頼みごとをしてきた。
失踪した婚約者・関根彰子の行方を探して欲しい、というものだ。
彼女にクレジットカードを作らせた際、自己破産の記録が出てきたため、そのことについて訊いた翌日、説明も何もなく姿を消したのだという。
あまり気乗りしなかった本間だが、家とリハビリだけの生活に飽きていたところだったので、和也に「思うような成果が出ることは期待しないよう」に釘を刺して承諾した。
和也からの情報を頼りに、彰子の勤務先と自己破産の手続きを執り行った弁護士事務所を訪問する。
そこで本間は、彰子が28歳で初めて雇用保険に入り、履歴書の職歴は全てウソであることを知り、挙句に彼女は弁護士が知っている「関根彰子」ではない、という驚愕の事実を突きつけられた。
他人が「関根彰子」に成りすましている。
ショックを受けた和也はこの件から降りるが、本間は刑事としての使命、そしてそれ以上に好奇心に駆られて、本物の関根彰子と彼女の身分を乗っ取っている女の行方を追う。
感想
小さな手がかりから少しずつ真相に近づいていく。
この流れが「おおーっ!アレが伏線になっていたのかー!」とアハ体験的な驚きとなって引き込まれます。
本物の彰子とニセモノがどこで接点を持ったのか。
本物とニセモノ、それぞれの人生行路における凄惨さの類似点。
追いかける本間と一緒に、読んでいるこちらも彼女たちへの好奇心を止めることが出来ません。
宮部さんの小説は人物造形もとても丁寧で、どの登場人物も身近にいる人を感じさせます。
「いるいる。いるなぁ、こういう人」と脳裏に浮かびやすいのです。
本間自身が写真でしか知らない本物ニセモノどちらの関根彰子も、初めのうちこそ得体の知れないゴーストみたいな存在でした。
だけど真相の端尾を掴むたび、実際に生きている(生きていた)人間である、という実感をこちらも持ってしまうんですよね。
実際にはフィクションなんだから違う、と分かっているのですが、説得力と臨場感がハンパじゃないから、実在の人物のように思えてしまう手腕はやはりすごいです。
本間を取り巻く人々も、本間家の家政夫・井坂さんや同僚刑事の碇さん、息子の智に、彰子の幼なじみで捜索の手伝いを申し出る(そして最後においしいところを持って行く) タモッちゃんなど、身近にいそうな個性ある人物で外見も全員なんとなく頭に浮かびます。
むしろ主人公の本間がいちばん無個性に思えて外見が分からない (;^ω^)
今回は最初にドラマ化されたときの本間役・若いときの三田村邦彦さんで脳内情景描写しました。
それにしても古い作品です。
1992年.過去を探れば80年代の話になるので、ああもう石器時代並みの遠い記憶 (そこまでかっ!)
この時代のせいか、結構初っ端から個人情報ガバガバなことに驚きます。
ニセ彰子が働いていた会社の社長さん、履歴書を本間にあげちゃうんだもん。
しかも本間は警察手帳がないから、刑事と名乗っていない状況で、ですよ?
良く言えばおおらかで気前がいい。
悪く言えば他人の秘密を悪気なく漏らす。
なんかもう社長さん、お人好しに見せかけた危険人物。
こういう人には大事なことを何一つ漏らしてはいけない (;´・ω・)
この作品は昭和50年代後半に起こったサラ金パニック、そして現在のクレジット破産が背景にあります。
絶望と恐怖の中で地獄に引きずり込まれていく人々の描写に戦慄します。
「火車」と「闇金ウシジマくん」は、散財しそうになる自分を律するのにメチャクチャ役立つ作品です。
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どちらも本当に怖い。絶対に借金なんかするもんか、と思わされます。
見栄を張らず、身の丈にあった暮らしをすることの大切さが分かりました。
まとめ
賞が獲れなかったからこの作品の価値が下がるというものではないけれど、直木賞候補に挙がった時、選考委員の誰かが「犯人が最後まで出てこないのがダメだ」と言って賞から外した、と聞きました。
そのとき「バカバカバカ!それがこの小説の面白いところなんじゃない!」と憤慨したものです。
山本周五郎賞は獲っています。
ドラマ化が二度ほどされていますが端折ってあるので、小説のほうをガッツリ読むほうをオススメします。
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こちらのもよろしくお願いします
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