映画「あなたになら言える秘密のこと」あらすじと感想【ネタバレあり】
2005年公開。
「死ぬまでにしたい10のこと」の監督イザベル・コイシェと主演サラ・ポーリーのコンビが再びタッグを組んで、戦争の傷痕に苦しむ女性の心の再生を描いていく作品です。
共演はティム・ロビンス。
自身も心に傷を負い、寝たきりで目も見えないなか、ポーリー演じる主人公の心を開かせていくという難役に挑みました。
クライマックスの、主人公が自身のショッキングな体験を話すシーンでは、二人とも静かながら圧巻の演技力で、強烈な印象を観る側に与えます。
あらすじ
イギリスの工場で働いて4年になるハンナ・アミラン。
周囲の人間と口をきかず、無遅刻・無欠勤で真面目過ぎる彼女は、人事から1ヵ月の休暇を強制的に取らされる。
旅行のパンフレットを渡されるけれど、行きたいところなどない。
家に帰ると手紙が届いていた。
物がほとんど置かれていない部屋の中、石鹸だけが大量にある。
手紙を送ってくれた中年女性インゲに電話をかけるけれど、何も喋らない。
しかしインゲはハンナと気づいてくれ、何も言わないことを責めたりしない。
冷蔵庫の中はお弁当と同じメニューしか入っていない。
それを夕食にする。
翌朝、とりあえず荷物を持って旅行に出てみることにした。
当てもなくバスに乗り、港町でホテルを借りる。
昼食に入ったレストランで、近くの席の男性が看護師を探していることを知り、自分は看護師だと名乗り出た。
海上に設置した石油掘削現場で事故が起こり、ジョゼフという重傷者を陸に移送するまでの2週間、ハンナが面倒を見ることになった。
事故では火災が発生し1人が死亡している。
ジョゼフはその死亡した人物を助けるために火の中に飛び込み、腕と脚を骨折してベッドから動けなくなり、顔・体のみならず角膜まで火傷を負ってしばらく目が見えなくなっているのだ。
明るい性格のジョゼフは顔も見えないハンナにいろいろ質問してくる。
しかし馴れ合うつもりはないハンナの反応は冷たい。
名前も、ジョゼフがノリで “コーラ” じゃないか? と訊いてきたので、それで押し通した。
髪の色も本当は金髪だが赤毛と嘘をつく。
ジョゼフの夕食を取りにキッチンに行くと、陽気なコックのサイモンがハンナに興味を持ってくる。
出身地の料理を作るよ、と言われても告げることができない。
誰もかれも出身地を訊いてきて、それがハンナには煩わしかった。
ジョゼフの食事介護をすると、好きな食べ物を訊かれたので正直にチキンと答える。
そして白米とリンゴ。
毎日それしか食べていない。
トレイをキッチンに返しに行く途中の階段でハンナは座り込み、ジョゼフの食べ残しにふと手をつける。
初めて体験した美味しさに手が止まらず、無我夢中で口に運んでいった。
他愛無いやりとりを続けていくうち、ハンナは少しずつジョゼフとの会話を楽しむようになってきた。
ハンナは補聴器を着けていて、聞きたくない話のときはスイッチを切ってしまう、と小さな秘密を吐露。
ジョゼフはなぜ “コーラ” という名前を出したのかを白状。
そしてカナヅチであることもハンナに伝える。
容体が回復しないジョゼフのことを、ハンナは医師に連絡してヘリの手配を頼む。
早くても明後日ということだった。
ハンナは現場責任者に事故の詳細を訊く。
死亡した男性は炎に飛び込んで自殺したのだというのだ。
彼を助けようとして重傷を負ったジョゼフに話を聞くと、ジョゼフは隠していた大きな秘密をハンナに打ち明ける。
翌日、ジョゼフの移送を明日に控え、ハンナもまたずっとひた隠しにしてきた衝撃的な秘密をジョゼフに話す。
感想
ジョゼフの秘密… それは親友の妻を横恋慕したことでした。
自分の気持ちに歯止めを利かせられなかったジョゼフは、ポルトガルの尼僧がフランスの軍人に宛てた恋文を載せた書簡集「ポルトガル文」をその女性にプレゼントしました。
女性もジョゼフの気持ちに応えてくれ、二人の関係は燃え上がります。
しかし親友に対しての罪悪感に耐え切れず、ジョゼフは親友に自分たちの不倫関係を言ってしまいました。
その親友とは、この事故で自ら炎の中に入り自殺した男性その人だったのです。
既婚者に意味深な本を贈り物として渡す。
親友の妻と恋仲になる
親友に告げる。
このすべては「人として、してはいけないこと」だったと、親友を死に追いやってしまった罪悪感から悟るジョゼフ。
この罪をどう背負えばいい? と涙を流します。
世の中で不倫が糾弾されるのは、こうして誰かを必ず不幸にしているからに他なりません。
ジョゼフの場合、親友を自殺に追い込むという、本当に取り返しのつかないことになって苦悩します。
不倫をする人の中には、相手の配偶者が自殺をしたら逆に喜ぶような腐った人間もいますが、まともな神経ならショックを受けます。
後味の悪い、苦い思いをするくらいなら、既婚者と分かった時点で身を引くほうがいいのではないかと思います。
そのときは寂しくて苦しいだろうけれど、そのまま付き合いが続くほうがより苦しい思いをする、と割り切って、もっと良い人との幸せを見つける方向に進んでほしいです。
ヘリで移送される前日、ジョゼフはハンナの身も凍るような壮絶な体験を聞き、嗚咽する彼女に呼応して泣きながら抱きしめます。
一緒にヘリで陸地に戻りましたが、ジョゼフが乗せられる救急車にハンナは同乗しませんでした。
何度も本当の名前 “ハンナ” と呼びかけるジョゼフにまったく反応せずハンナは去っていきます。
もしかしたら補聴器のスイッチを切っていたのかもしれません。
休暇は終わり、また工場で黙々と作業をこなす孤独な日々に戻ります。
ジョゼフは回復し、退院時にハンナが忘れていったリュックを渡されました。
もう一度ハンナに会うため、ジョゼフはコペンハーゲンに飛び、ハンナのカウンセラーだった女性インゲに会います。
ハンナと一生を共にしたい、と言うジョゼフに対しインゲは冷ややかです。
一人でいさせてあげることが必要ではないか、と問うインゲに、ジョゼフはハッキリと、彼女には僕が必要です、と告げます。
僕も彼女が必要、とも。
ハンナが工場で働いて4年経っています。
だから少なくとも4年、ずっと一人で孤独に生きてきています。
インゲの言う通り、一生消えない傷です。
生き延びたことを恥じて、息を潜めるように生きている。
だけど、互いに支え合えると言ってくれる人がいたら、一緒に生きてみるのにはいい頃合いではないでしょうか。
一人でいることが必要な時期というのは、もしかしたら看護師だと名乗り出たときに、抜けたのかもしれません。
誰かと関わりたいと思ったからこその行動だったのではないかと思うのです。
ラストで会いに来たジョゼフにハンナは「涙の海で二人とも溺死してしまう」と言って拒絶します。
だけどジョゼフは「泳ぎを練習する」と、カナヅチの自分を揶揄しながらも真摯にハンナと向き合い、二人は結婚します。
思い出すたび涙が溢れ出て苦しみにもがいても、誰かの支えがあれば少しは和らぐものと思います。
一人で苦しみを抱えるより二人でシェアできる関係の恋愛がいいですね。
少し幼さが残る少女の声のナレーションが冒頭で流れます。
何を言っているのかサッパリな不思議な内容。
旅先のホテルの部屋に着くや、やるせなさそうな表情で乱暴にベッドカバーをグチャグチャにする行動。
工場で働いているのに看護師と名乗ったこと。
何を意味しているのか分からなかった部分が、ハンナの秘密を知るとすべての謎が解けてゾッとします。
そして最後も少女のナレーションで幕を閉じるのです。
静かだけれど衝撃と余韻を残す作品でした。
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