映画「道」あらすじと感想【ネタバレあり】哀しいけど温かいフェリーニの代表作
イタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督が、名優アンソニー・クインを主演に据えて、肉体だけが武器の大道芸人の悲哀を描きます。
クインが演じるのは粗暴な男ですが、そんな人物を丁寧に繊細に演じています。
ヒロイン役は監督夫人のジュリエッタ・マシーナ。
非常に芸達者であり、演技力も高いです。
このヒロインは、少し頭が弱い、という設定なのですが、この “少し” の匙加減が上手いです。
大げさになりすぎず、かと言って微妙でもない、という絶妙な塩梅で演技しています。
美人ではないですが、表情がクルクル変わり、クリッとした瞳を生き生きとさせて微笑む顔がすごく可愛らしくて魅力的な女優さんです。
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あらすじ
旅芸人のザンパノに売られたローザが死んだ、という報告が家族に伝えられた。
ローザの後釜として、今度は姉のジェルソミーナが1万リラでザンパノに売られる。
ふたりは荷台をつけたオートバイで各地を回ることになる。
なんの芸も持っていないジェルソミーナに、ザンパノは太鼓でお囃子をやらせ、帽子を持って観客からのおひねりを入れさせる役を任せた。
ザンパノの芸は、胸に鎖を巻いて、胸筋の力で外す、という肉体を使ったもの一本だけだった。
ジェルソミーナが来たことで簡単な喜劇も取り入れるようになる。
それでその日の食事がありつける状態だ。
ザンパノはジェルソミーナに手を出しており、観客にも妻だと紹介する。
しかし彼は手当たり次第に女性に手を出す男で、彼が女性と他所に行く間は、いつも置いてけぼりにされてその場で待たされるのだった。
ある日、一晩中街角で待たされた挙句、ひとり原っぱで熟睡しているザンパノに腹を立てたジェルソミーナは、もう家に帰る、と言って歩き出す。
だけど本気ではないので、しばらく離れたところでザンパノが追いかけてくるのを待っていた。
そこへ楽しそうな楽団が通りかかり、ジェルソミーナはそれにつられて後を追う。
辿り着いた場所は、キリスト教の大きな祭りを開催しているパレードの行列だった。
人波に揉まれながら、十字架にかけられたイエスの像を見て感慨に耽る。
祭りは夜も続き、そこで綱渡りの大道芸が行われるのを見学する。
命綱も、下にネットもない街なかでの綱渡りに、ジェルソミーナは息を呑みながら見入った。
祭りが終わり人もまばらになってきた頃、ザンパノがジェルソミーナを探しに来た。
粗暴なザンパノは、抵抗するジェルソミーナを力技で抑え込み、強引に荷台に乗せた。
ふたりはサーカスの一座が集まっていく区画にやってきて、そこで仕事をもらう。
そのサーカス団には、昨夜の綱渡り芸人・イルマットが所属していた。
ジェルソミーナは憧れの眼差しで彼を見るが、以前から知り合いだったザンパノは、イルマットを毛嫌いしている。
ピエロ役でもあるイルマットは、そんなザンパノをからかって挑発するのだった。
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感想
ザンパノは、胸筋で鎖を切る、という芸しか持っていません。
すごいのですが、見た目的には非常に地味ですし、年齢を重ねてくれば、いずれ出来なくなる日がやってきます。
反してイルマットの綱渡りは、見た目も派手なので、サーカスの花形です。
しかも彼は楽器も弾けて、ピエロ的な役割で観客を楽しませる能力があります。
いつもザンパノの横暴に小さくなっているジェルソミーナに、イルマットは声をかけ、トランペットの演奏を教えてあげました。
ジェルソミーナは一曲演奏できるようになり、楽しそうにトランペットを吹きます。
自分をからかってくるイルマットが大嫌いなザンパノは、彼のマルチな才能も気に入りません。
そしてジェルソミーナがトランペットという一芸を手に入れたことも面白くない。
出る杭は打たれると言いますか、秀でたものを持っている人は、その分野で活躍しようとする人から羨望と嫉妬の対象になりえます。
羨ましがられている、とポジティブに受け取ることができればいいですが、因縁をつけられたり陰湿な態度を取られたら気が滅入りますよね。
能力がある人は存分にその力を発揮すべきだと思います。
だけど明らかに嫉妬している人にちょっかいを出したり、からかったりすることは止めたほうがいいです。
イルマットはこの気質のせいで、のちに取り返しのつかないことになります。
名場面の多いこの作品の中でも、屈指の名シーンと言えるのが、逮捕されたザンパノを待つジェルソミーナとイルマットの会話です。
怒りのあまりイルマットを追いかけてナイフを振り回したザンパノは、駆けつけた警官に逮捕されました。
ザンパノはもちろん、原因を作ったイルマットもクビになり、サーカス一座はテントを畳んで、このヴィレッジを後にします。
ジェルソミーナは、サーカス団員の人たちや、イルマットからも「自分たちと一緒に来ないか」と誘われるのですが、どうしていいか途方にくれます。
何の芸も持っていないし、料理もできない。
不美人だし、自分なんか誰にもなんの役にも立たない。
だから誰とも一緒に行けない。
そう言ってジェルソミーナは泣きだしました。
そう聞いたイルマットは、足元の小石を拾い上げてジェルソミーナに言います。
存在する価値がない人や物は、この世に存在しない。
この小石にだって価値がある。
自分にはこの小石の存在価値は分からないけれど、誰かにとっては価値のあるものなんだ。
この言葉はジェルソミーナの心を溶かします。
イルマットも彼女と一緒にやっていきたい、とは思っていますが、自分以上にザンパノのほうがジェルソミーナを必要としていることを伝えました。
何も成し遂げていない。
いろんなことが上手くいかない。
誰からも顧みられている気がしない。
そんな状況が続いて「自分はこの世に存在する価値なんてないんじゃないか」と考えてしまう人もいると思います。
だけど何も持っていなくても、人生に躓いてしまっていても、ほとんどの他人があなたの存在に価値を見出さなかったとしても、どこかであなたを必要としている人はいるのではないでしょうか。
人とは限りませんね。
動物かもしれないし、植物かもしれない。
とりあえず、あなたの存在が誰にとっても何にとっても無価値、ということはありません。
あまりヘコまずに生きていきましょう。
粗野な態度で周囲と摩擦を起こすザンパノ。
一泊させてくれた修道院では、窃盗をしておきながらシレッとしている小悪党です。
ジェルソミーナはそんな彼を哀しい目で見つめながらも離れようとはしません。
私がいなくなったら、あなたは一人ぼっちになってしまう。
そう言って寄り添うのです。
ザンパノは、自分が孤独で淋しい気持ちを抱えていることに気づかない哀しい人です。
彼の横暴な態度も、淋しさを打ち消すための行動なのかもしれません。
トガッた態度で人を寄せ付けず、自ら孤独を選んでいるように見える人は、案外自分に寄り添ってくれている人がいることに気づいていないのかな、と思います。
ラストのザンパノの姿が自らと重ならないうちに気づけるといいですね。
もう4回くらい観ているのですが、いつも観終わったあとは「はぁ~、本当いい作品だなぁ」と、しみじみと余韻に浸ってしまいます。
哀しいんだけれども、なぜか胸に温かいものが溢れる感覚になるのです。
ラストシーンが、実はリテイクしたものであろうと思う部分は、まあ見なかったことにして…
※海に入る前からズボンの裾が濡れています
この作品のテーマ曲は「ゴッドファーザー」などでもお馴染みのニーノ・ロータが作曲したものですが、バンクーバー・オリンピックでフィギュアスケートの高橋大輔選手が、この曲で演技をして銅メダルを獲得していますね。
それをきっかけにこの映画を知った、という方もおられるようです。
高橋選手の演技に感動した後は、ぜひこの名作も観てほしいと思います。
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