映画「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明」あらすじと感想【ネタバレあり】
2017年公開。
近年のミステリー作品としてかなり評価の高いスペイン映画です。
会話劇の中で回想シーンを入れる形で謎を紐解いていくのですが、ミスリードへの誘いも含めてスピーディーに二転三転する展開に、中だるみすることなく一気に惹きつけられました。
あらすじ
不倫相手のローラを殺害した容疑で起訴されている青年実業家・ドリアの元に、凄腕の女性弁護士グッドマンがやってきた。
顧問弁護士からの紹介でドリアの法廷での弁護を彼女は請け負ったのだ。
今日が初顔合わせである。
緊急事態のため、約束の時間より3時間も早くグッドマンはやってきた。
検察側が新たな証人を見つけたため、急遽今日これから審理が開始されるという。
残された猶予は3時間。
その間に反証する材料を集めるため、二人で事件について話しを詰めなければならない。
グッドマンはドリアに、事件について最初から洗いざらい話すように促した。
事件当日、ドリアは何者かに10万ユーロをもってローラと二人、自宅から300キロ離れたホテルに来るようにと脅された、という。
脅迫者からの指示で715号室に入り2時間待つ。
ローラのスマホにメッセージが入り、それを見たドリアは「これは罠だ。帰ろう」と言って荷物を持ちあげたところで、背後から何者かに急襲されて意識を失った。
ドアを乱暴に叩く音で意識を取り戻す。
警察がドアを開けるように要求していた。
ドリアは立ち上がりドアに向かおうとするが、床に重そうな置物が転がっているのが目に留まって拾い上げる。
血が付いていた。
そしてバスルームに目を向けると、撲殺されたローラの遺体が、10万ユーロ分の紙幣を降り注がれた形で転がっていた。
警察がホテル従業員に鍵を開けさせてチェーンも壊して突入してきた。
遺体を抱きしめて泣いていたドリアは、その場で即逮捕される。
この部屋は、鍵がかかっていたドア以外には、内側からしか開閉が出来ない窓だけが外に出られる唯一の手段である。
そしてその窓は閉まっていた。
つまり密室殺人である。
ここまで話したドリアに、グッドマンは脅迫を受ける理由を訊いた。
ためらうドリアにグッドマンは、ビエルヘでダニエルという青年が失踪している、という新聞記事を見せ、何か関係があるんじゃないか、とカマをかける。
数か月前、ドリアはローラと密会したあと、二人で車に乗って帰る途中で事故を起こしたのだ。
よそ見をしているときにシカが飛び出したために対向車線にハンドルを切り、運悪く対向車とぶつかったのだ。
自分たちは軽傷だったが、対向車に乗っていた青年は死んでいた。
通報しようとするドリアをローラが止める。
めったに車が通らない山道での事故。
目撃者はいない。
身の破滅を招くより隠ぺいすることを二人は選んだ。
通りがかった車のこともやり過ごし、青年の遺体をトランクに詰めてドリアは彼の車を運転して車ごと湖に沈めに行く。
そしてローラは、衝撃で故障したドリアの車に残りロードサービスに電話した。
しかし目印ひとつない場所で住所もわからないため、サービスはなかなか来ない。
途方に暮れていると、一台の車が通りかかり、運転していた年配の男性が声をかけてきた。
男性はトマス・ガリードと名乗り、近くに住んでいて元整備士だったという。
彼の家まで牽引してもらい直してもらうことに。
ガリード家に着くと妻から色々もてなしてもらうが、犯罪行為の真っ最中のローラは落ち着かない。
そして妻から息子ダニエルの写真を見せられて驚愕する。
今まさにドリアが湖に沈めようとしている、遺体となった青年だった。
車の修理が済むと同時に、妻のケータイにダニエルの友人から「まだ彼が約束の場所に来ない」という連絡が入る。
ローラはそそくさと玄関に向かうが、ダニエルのケータイは彼女のポケットに入っており、心配する両親がかけたため着信音が鳴ってしまった。
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感想
ローラの殺害についても、自動車事故とダニエルの遺体遺棄についても、すべてドリアの口から語られます。
ローラが体験したガリード家でのことも、合流した後にローラから聞かされたことを語っている、という体です。
どちらの事件についてもドリアしか語れる人物はいません。
もうひとりの真実を知る人物・ローラは死んでいるのだから。
つまり彼は、いくらでも嘘をつけます。
自分に都合のいいように事実を捻じ曲げて話し、保身に走ることが可能なのです。
ローラと不倫の関係とはいえ妻との夫婦仲も良く、まだ幼い娘の成長だって見守りたいドリアは離婚したくありません。
仕事の方も、アジア進出の足掛かりとなる大きなプロジェクトを控えています。
自動車事故が表ざたにされることは何としても避けなければなりませんでした。
そしてローラの殺人についても、なんとしても無罪になるためには、自分は犯人ではないという証拠を示し、善良な人間であるという印象を陪審に持たせなければなりません。
それゆえグッドマンにも嘘をついて矛盾点を指摘されます。
保身のために嘘をつく。
誰かに濡れ衣を着せたり、心からの反省などしていない表面上の謝罪だけをしてみせたり…
誰の目から見ても腹立たしい、卑怯な行為ですね。
だけど窮地に陥ったとき、自分は絶対に保身になんか走らず正々堂々と非難を真っ向から浴びて責任をとる、と言い切れる人は、どのくらいいるでしょうか。
普段はそう思っていても、いざというとき本当にそうできるとは限りません。
非難されたり罵倒されるのが、自分だけではなく、大切な家族や友人などにもいき、仕事や仕事仲間にも影響が出てきたら…
そう考えると、どうしても言い訳をして、自分の非を軽くしようとしたり、正当化しようとしたり、という面は出てくるのではないでしょうか。
大抵の人の心の中には “自分を守りたい” という保身の気持ちがあると思います。
それが悪い方向に出て非難を浴びることがありますが、過剰に非難する前に、誰でもやってしまうことかもしれない、という気持ちを忘れずにいたいところです。
ただ、不慮の事故で、とかならそう考えることもできますが、故意の犯罪や虐待の隠ぺい・言い訳には心底腹が立つし理解したくもないので「言い訳してんじゃねーー!」と蹴り上げたくなります。
やっぱりケース・バイ・ケースですね。
ダニエルが失踪してから、トマスは何度も警察に足を運んだり、手がかりを掴もうといろいろ行動します。
ローラとの邂逅を細かく思い出し、車がドリアのものであり、運転していたのも彼だったことに気づきます。
偽造IDで記者に成りすましてドリアに接触し、借りたライターがローラの車にあったものと同じだと気づいたことで、ダニエルの遺体を隠ぺいした張本人だと確信しました。
あくまでシラを切りとおすドリアに、トマスは「親は子供のためなら何でもする」と言い、それ以来ドリアを陰から監視します。
トマスも、そして妻も、ダニエルのためにドリアの犯行を立証しようと奮闘します。
「ラブリーボーン」のときにも、我が子を凶悪犯罪で失った両親の心情について書きましたが、やはり何としても真実を知ろうとする親の執念は強いものです。
そしてこちらの作品では、その執念は功を奏します。
親の愛というものを甘く見ていたドリアには破滅が待ちます。
もっと誠実であったならば、と思わずにはいられませんでした。
副題の「悪魔の証明」は、「 “ない” ということを証明することは不可能」という法律用語だそうです。
ドリアとグッドマンは、 “ない” ものをでっち上げて無罪判決に持ち込もうと画策します。
タイトルがすでに伏線となっていると見ていいでしょう。
観客も謎解きが出来る仕掛けになっています。
ちょっと後出しの要素もありますが、伏線は張られています。
そして嘘をついているのはドリアだけなのか…?
人狼ゲームが得意な方は有利かもしれません。
ある程度ネタバレしましたが、一番大きなネタバレはしていないので、後半からラストまでのクライマックスを、ぜひ楽しんでほしいと思います。
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