映画「薄化粧」あらすじと感想【ネタバレあり】プライドずたずたの男の業
実際の事件をモチーフにした西村望さんの原作小説を、五社英雄監督×緒形拳主演のタッグで映像化しました。
ヒロインを演じた藤真利子さんがブルーリボン賞を獲得。
刑事役の川谷拓三さんも日本アカデミー賞にノミネートされました。
浅野温子さんや浅利香津代さん、宮下順子さん、松本伊代さんなどが緒形さんを取り巻き、竹中直人さんや大村昆さんなども出ています。
あらすじ
昭和27年。高知県。
民家で爆発が起こり、目撃証言によりその場から逃げた坂根藤吉が逮捕された。
厳しい尋問に口を閉ざす坂根だが、自宅の捜索で妻ふくみと幼い息子の喬を殺害していたことがバレる。
独房で夜を過ごす坂根は、隠し持っていた剃刀で自身の首を切って自死を試みるが一命を取り留める。
暴力を伴う尋問は続き、坂根は脱獄を決行した。
事の起こりは、落盤事故だった。
鉱員だった坂根は、その事故で多くの仲間を亡くし、会社に補償金を出すよう、組合のリーダーとなって運動を起こす。
会社側は坂根だけを別室に呼び、大金を渡して運動を止めるように要求した。
目がくらんだ坂根はその金を遺族らに分配などせず、金貸しとなって彼らを食い物にする。
事故で夫を亡くした地所テル子は坂根の愛人になった。
家に金を入れないのにテル子には惜しみなく物を買ってやる坂根に、ふくみの不満は爆発した。
テル子と取っ組み合いのケンカになるが、坂根が庇ったのはテル子の方だった。
夫婦仲は完全に崩壊し、夫婦げんかの流れで坂根はふくみを殺害。
床下に埋め、母がいなくなったことを寂しがる喬も、遠くに連れ出して殺害した。
その頃、事故で半身不随になり働けなくなった仲間・仙波の妻すゑのことも金と引き換えに愛人にしていた坂根は、彼らの娘弘子にも目を付ける。
18歳の彼女は、藤吉に対して好意を持っているように巧みに見せかけ、大金をせしめていく。
しかし強引な藤吉を嫌い、鉱山会社の御曹司との結婚が決まったことで、彼を手酷く突っぱねた。
テル子との同棲を開始した藤吉だったが、この騒動を知っている彼女の気持ちはすでに醒めていた。
そして弘子の婚礼の日。
腹の虫が収まらない藤吉は、仙波家にダイナマイトを仕掛けて爆破。
仙波とすゑが亡くなり、弘子も重傷を負う。
昭和34年。
遠くの山間の飯場で、偽名を使って働きだした坂根は、他の仲間から虐められている氏家と仲良くなり、彼の馴染みの居酒屋の女将・内藤ちえとねんごろになる。
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感想
過去の出来事をまとめて書きましたが、映画では、現在と過去を交互に切り替えて少しずつ真相を見せていく手法を取っています。
そのため、坂根の狂気は少しずつ知っていくことに。
最初は「本当に彼が犯人なの?真犯人がいるんじゃ?」とミステリー的な興味に引っ張られ、真相が分かってからも彼の行く末が気になって、最後まで集中して観られました。
これまで五社映画では「女たちの業」を描いた作品をよく観ましたが、この作品では「男の業」が丹念に描かれています。
この作品でもふくみとテル子の取っ組み合いシーンがあって、相変わらず女性たちが強いですが、傍にいる坂根は「やめなさいよ~」と軽く言うだけで、本気で止めようとしません。
むしろこの状況を楽しんでいるかのよう。
モテる自分が嬉しい中年男。
そのため、女性から拒絶されたり反撥されると本気で怒り、脅しをかけ、暴力も奮います。
着服した金をバラまいて手に入れた女性たちなのに、それを自分の魅力と勘違いした、情けなくてだらしない男。
糟糠の妻はこんな坂根に疲れ果てるし、ふくみがいなくなって張り合いが無くなってしまい醒めたことをテル子は率直に伝えます。
すゑも金のためだし、弘子からは揶揄われた上に「これ以上付きまとったら御曹司の力でアンタをこの町にいられなくしてやる!」と脅され…
モテてるつもりになっていた坂根の無駄に高いプライドはズタズタ。
本当に五社作品、女は強くて男はしょうもない (;´∀`)
そんな坂根ですが、ちえは本気で彼に入れ込みます。
殺人犯と分かった上で。
危険人物だと分かっていても、そんな男に惹かれる女性って本当にいるんですよね…
別れを告げられても離れられない彼女は、坂根を追って駅まで来てしまいます。
ずっと坂根を追っていた刑事の真壁は、ちえを尾行して坂根を追い詰めました。
これで坂根の逃亡劇も終わりです。
最後、彼はちえに裏切られたと思ったのでしょうか?
それとも逃げ続ける地獄から逃れられたと思えたか。
サーチライトに照らされた顔は驚愕しているように見えましたが、体は棒立ちです。
坂根の人生を追いながら、取り巻く女性たちの悲哀も描く、見ごたえのある映画でした。
主演の緒形さんが「陽暉楼」撮影時に五社監督にこの作品の映画化を打診してきたそうで、その気合を感じる芝居も見どころです。
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