映画「殺意の夏」あらすじと感想【ネタバレあり】復讐心の果てに
1983年公開。
後年「クリクリのいた夏」などのヒットを出すジャン・ベッケル監督の初期の作品です。
主演のイザベル・アジャーニはこの作品でセザール賞主演女優賞を受賞しました。
1981年の「ポゼッション」に次いで二度目です。
アジャーニは現在までに同賞を5回受賞しています。
実は彼女は一度この役を断っていて、代わりにヴァレリー・カプリスキーが起用されたのですが、やはり自分がやると言い出して奪い返した、というスキャンダルを起こしています。
実力派の美人女優なのですが、なかなかのお騒がせぶりです(;・∀・)
ちなみにこの映画でのチリチリパーマは正直彼女の美貌にマッチしていません。
ラスト近くで少しパーマが取れてゆるウエーブに近くなっているので、そちらの方が断然似合っていて可愛い。
そしてまだ無名に近かった頃のフランソワ・クリュゼが、相手役アラン・スーションの弟役でセザール賞助演男優賞を受賞しました。
この作品以後めきめき頭角を現して賞レースの常連になります。
2011年にはオマール・シーとダブル主演だった「最強のふたり」が世界的なヒットになりましたね。
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あらすじ
小さな田舎町に住む青年フロリモン・モンテチアリ、通称パン・ポンは、自宅納屋で自動車修理の仕事をする傍ら消防夫として街を巡回していた。
イタリア人の父は亡くなっており、母と弟二人、そして母の姉にあたる伯母と五人で暮らしている。
ある日、エリアーヌという美少女が、母親と車いすに乗った父親と共にこの町に引っ越してきた。
通称でエルという彼女はたちまち街で目立つ存在になり、彼女と関係を持ったと言い出す男たちが現れて噂の的になる。
パン・ポンは巡回のたびに彼女に惹かれていき、ダンスホールでは一緒にチークを踊った。
翌日エルは自転車のパンクを直してもらいに、パン・ポンの納屋を訪れる。
そこに自動ピアノが置いてあることを聞き、かすかに眼光が鋭くなるがパン・ポンには気づかれていなかった。
一緒にレストランに行く約束をしてあり、今日それを実行することにした。
お酒が入ると泣き上戸になるエルは、閉店時間になっても泣き続けて、結局最後の客になる。
そのままパン・ポン宅の納屋に二人で泊まることにした。
翌朝エルは自動ピアノの現物を見て復讐の決意を新たに固める。
すっかりエルに夢中になったパン・ポンは、エルを自宅に招き入れて家族に紹介し、結婚前提ということで同居させることにした。
ある出来事に対してモンテチアリ家への復讐を虎視眈々と狙っているエルには願ってもない絶好のチャンスだった。
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感想
露出の高い服を着てお尻を振りながら街を練り歩き、仕事もせずダンスホールに繰り出すエルは頭のいい女性には見えません。
実はこれらの行動もすべて計算づくでやっていた可能性もあるのですが、やっぱりバカにされて見下されるのは面白くないわけです。
デートでレストランに向かう途中、パン・ポンおすすめのところなのでエルは場所を知りません。
車の中で「どこまで行くの?」と聞きますが、パン・ポンは笑って「どこまででも行くよ~」と躱したことが気に入らず「私と寝たいだけなんでしょ!」といきなり怒り出します。
パン・ポンとしては「いや~んイジワル、教えてー♡」とか「いいわ~アナタとならどこまででも♡」的なキャッキャウフフなバカップル返事がくると思っていたのでしょう。
(観ているこっちは、オエエ…勝手にせいや的な脱力感に苛まれるアレ)
どっからその答えが出た? みたいなエルの反応にパン・ポンもこっちもびっくりです。
ですが男性の欲望をそそる煽情的な恰好をしていることも実は復讐のための計算だったとしたら、簡単に寝ると思われていることは屈辱的でしょう。
そう思われたいけれど思われたくない、という相反する気持ちがエルの中にあったように思えます。
食事中もエルは、自分だって本当は賢いことを分かってもらおうと、得意の暗算を披露します。
パン・ポンにはあまり面白くないのですが、バカだと思われたままなのは悔しいエルは必死です。
馬鹿だと思われ、そう決めつけられて見下されるのは誰だって悔しいしイヤな気持ちになります。
そうされたくないからマウンティングする人がいるのですね。
相手にも脳みそがあることは忘れてはいけないことです。
むやみに馬鹿扱いせず、尊敬する部分を口に出して褒めていくのがいいのかな、と思います。
すっかりエルの魅力のトリコになったパン・ポンは、「エルと出会って人生のアクセルが踏まれた」と言ってこの恋に溺れます。
家族の許可も後回しで同居を決行し、エルが顔にケガを負えば誰が殴ったんだと家族を問い詰めます。
学生時代の女性教師とのディナーで帰りが遅くなってもムクれてしまいました。
(実際にはレズビアン相手だったので、浮気に等しいかも)
復讐に囚われているエルの狂気は次第にパン・ポンもおかしくさせていきます。
三兄弟の中で一番穏やかだった彼は、怒りっぽく暴力的になり、疑い深くて感情のアップダウンが激しくなります。
家族も彼を止めることが困難になってきました。
恋愛はこれまでの日常に華やぎや彩りを与えてくれ、まさに人生のアクセルが踏まれたかのように人を活動的にさせます。
しかし恋愛を進める道にも急カーブやデコボコ道もあります。
そのためにブレーキがあるのですが、恋に夢中になりすぎるとアクセル全開で突っ走って信号無視して人を轢くわ、お店に突っ込むわの大惨事を引き起こしてしまいます。
恋愛も車の運転と同じです。
心の中にはブレーキがちゃんと存在しているのですから、アクセルふかしまくりになりそうになったら利用して、健全な恋愛をしてください。
結婚式当日、中庭でのガーデンパーティーの最中にエルがいなくなってしまいます。
実際には車いすで参加できなかった実家の父親に会いに行っていたのですが、途中でいなくなることは計画した罠の始まりでした。
式のあと、夜にエルは戻ってくるのですが、結婚してから9日後、エルは再び姿を消します。
これもまた、復讐計画の一環だったわけですが、心配して探し回るパン・ポンに弟のミッキーは「女の子は人を騒がせて喜ぶから」と言って慰めます。
すべての女の子がそうではないですが、注目してもらいたくて騒ぎを起こす人はいますね。
寂しいから誰かに注目してもらいたい、という承認欲求のひとつだと思います。
エルの場合は違いますが、周りから構ってほしくて、中心になりたくて、それで嘘をついたりスネたりして嫌われてしまって空回り。
特に思春期に多いですが、治らないまま大人になってしまった人もいますね。
ヒロイン願望もかまってちゃんも同じだと思いますし、誰の心にもある程度存在しているものだとも思います。
ただ表に出すのはほどほどに。
エルの怨みはずっと長年蓄積されてきたもので、それ自体が彼女の精神を蝕んでいました。
ラストでエルは自分が抱いていた怨念は意味がなく、復讐計画も無駄だったことを知り、完全な精神崩壊を起こし幼児退行してしまいます。
怨みというのは非常に強いエネルギーで、いつまでも持っていると自分自身が心身ともに疲弊してしまいます。
エルはそれにずっと耐えていたわけですが、無意味だったことで抱いていた強烈なエネルギーが一気に喪失し、無駄に失った時間やしなくても良かった行動への後悔から自分を見失ってしまいました。
エルが仕掛けていた罠にパン・ポンは最後に見事にかかってしまい、彼もまた破滅に向かいます。
「人を呪わば穴二つ」というのは、怨みをいつまでも持ってはいけないという戒めの言葉なんですよね。
理不尽な目にあって復讐したり呪ったりしたくなっても、自分自身の未来のために手放すようにしないと、と改めて考えます。
簡単なことではないと分かっていますが、忘れる方向になんとか持って行って、限りある人生を楽しみたいところですね。
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