映画「ミツバチのささやき」あらすじと感想【ネタバレあり】混乱のスペインと田舎の家族
寡作の映画監督ビクトル・エリセの初長編作品です。
撮影当時5歳のアナ・トレントを中心に、内戦が終結した直後のスペインの姿を田舎の家族を通して映し出しています。
あらすじ
1940年頃。
カスティーリャのオユエロス村で、映画の上映会が開かれた。
子供たちはじめ、村民のほとんどが公民館に集まって「フランケンシュタイン」を鑑賞する。
観客の中には、イザベルとアナの幼い姉妹もいた。
ふたりの両親は来ていない。
養蜂所を営んでいる義父フェルナンドは仕事中で、母テレサは姉妹の実の父親で戦地に送られた前夫に手紙を書いていた。
テレサは書き終えた手紙を持って駅に行き、郵便の投函口が取り付けてある汽車に手紙を入れた。
見上げると、これから戦地に向かう兵士と目が合った。
その頃フェルナンドは、懐中時計で時間を確認した。
蓋を開けるとオルゴール音で音楽が流れる。
退勤時間と決めて帰宅すると、映画の音声は自宅まで聞こえてきた。
実際に観ている姉妹は映画に釘付けである。
怪物に女の子が殺されたことを不思議に思うアナは、囁き声で隣のイザベルに理由を訊く。
そして夜、イザベルは怪物も女の子も実は死んでいない、とアナに教えた。
怪物はこの村の外れに隠れ住んでいる精霊で、夜にしか出歩かない。
でも友達になれば、目を閉じて「私はアナです」と名前を言えばいつでもお話ができる。
そんなイザベルの作り話を、幼いアナは信じた。
翌日、学校が終わってからイザベルはアナを、村はずれの廃墟に連れていく。
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感想
大きな動きは後半になるまでありません。
「起承転結」のセオリーに沿っているといったところです。
それまではこの家族の日常を追うことで、その裏側にある心理描写やメッセージを読み取っていく作りになっています。
言葉による説明は少なく動きや表情から伝えてくる手法に、こちらは常に考えさせられることになるのですが、不思議とイヤな感じはしません。
景色も室内も寂寥としているにも関わらず、絵画のような構図の映像がとても美しくて目を奪われます。
色彩を抑えているのでミレーやコローの絵に近いかも、と思いました。
そしてアナの可愛さです。
イザベルも可愛いのですが、無垢な瞳を持つアナは強烈な印象を残します。
スモックみたいなコートを着てエビ色の四角い通学鞄を持って立っているだけで目を惹く愛らしさ…
イザベルと一緒に廃墟に行ったときは怖かったけれど、翌日は自分一人で行く好奇心旺盛な子です。
このシーン、アナとイザベルがカメラの外に行ってから、次にタイツの色を変えたアナがひとりでカメラの内に入ることで「日付が変わった」ことを表わしていて「上手い」と思いました。
予算とか撮影日数の節約になってる。
まあ、メタいことは置いといて… この廃墟でアナは脱走兵と出会います。
アナは彼をフランケンシュタインの怪物 = 精霊と思い、フェルナンドのコートや食料を持ってきて彼と友達になろうとしました。
しかし脱走兵はアナが帰った後で、敵に見つかって射殺。
彼の持ち物として役所に届けられたコートには、懐中時計が入っていました。
時計の音楽でフェルナンドはアナと脱走兵の関わりに気づきます。
…この伏線も上手いですわ…… (メタ発言は置いていくと言ったそばから)
脱走兵が死んでしまったこと。一足早く大人になっていくイザベルが自分から離れていっていること。そして義父に怒られること。
そんな不安と孤独から、アナは行方をくらませてしまいます。
暗い川辺で出会った怪物は夢か現実か。
映画の女の子のように自分も殺されるかもしれない。
子どもの好奇心で “死” に興味を持ったけれど、死んだフリをしてアナをからかったイザベルが本当に死んだと思って身内の死に恐怖を感じ、仲良くなった脱走兵の死に寂しさを感じ、今度は自分自身に迫る死にアナは怯えます。
翌朝、遺跡近くで眠っているアナは義父たちに見つけられて家に戻りました。
いつもの子ども部屋ですが、イザベルのベッドからは寝具が取り除かれ個室に移ったことが伺えます。
姉妹の交流はこれまでよりグッと少なくなると示唆され、大人になるにつれて兄弟間がそうなってくるのは当たり前のことではあるのですが、フランコ派と反対派でスペイン国民が分断していることを端的に表しているようにも見えました。
こうした部分は他にもあり、この家族が全員でひとつの画面に映っているシーンというのがありません。
特にフェルナンドとテレサが。
一緒の食卓についていてさえ、カメラはそれぞれを別々に映しています。
朝の光景にしても、ベッドで寝たフリをしているテレサに、身支度をしているフェルナンドの影が映ります。
決して一緒のシーンを撮らないことで、この夫婦の機能不全がよく表れています。
最後にテレサが手紙を燃やし、机で寝てしまったフェルナンドに毛布を掛けたことで、ようやく家族として機能する未来が見えます。
これもまた、独裁政権によって二分してしまった国民。
それでも未来は手を取り合って一つになれることへの希望を込めたシーンなのだと解釈しました。
1973年当時のスペインの現状を巣箱の中のハチの生態になぞらえ、無垢な子供の目を通して死の嘆きや哀しみを描ききる。
寡作なだけあって、完成度の高い名作を作るなぁ、という印象を持ちました。
繰り返し観たい作品です。
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