映画「ピエロの赤い鼻」あらすじと感想【ネタバレあり】“笑い”が人を救うーー無名の英雄たち

ジャック・ヴィルレとアンドレ・デュソリエ共演の、ジャン・ベッケル監督作品です。
「奇人たちの晩餐会」でもヴィルレと共演したティエリー・レルミット、「ピアニスト」のブノワ・マジメルやイザベル・カンディエ、シュザンヌ・フロンなどが出演しています。
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あらすじ
街のお祭りで、ピエロになってステージに立つ教師のジャック。
14歳の息子ルシアンは、そんな父を見るのを嫌悪していた。
仏頂面でステージを眺めるルシアンに気づいたジャックの親友アンドレは、彼を会場の外に出して、ジャックがなぜピエロを演じるようになったのか話すことにした。
1940年代前半。
フランスはナチス・ドイツの占領下にあった。
のどかな田舎町ではあるが、ドイツ兵が我が物顔で闊歩する日常はジャックたちフランス人には面白くなかった。
後にルシアンの母になる、幼なじみのルイーズが経営するカフェにジャックとアンドレは入り浸っている。
そこでジャックの元教え子エミールが、レジスタンス活動をしている兄を助けていることを知った。
自分たちより若い青年たちが祖国のために抵抗活動をしている。
そのことに奮起した二人は、ドイツ軍の輸送路である鉄道施設を爆破することを思いついた。
見事やり遂げた二人だったが、施設内に同国人の鉄道夫フェリックスがおり、重傷を負ったことに気づかなかった。
爆破の成功をルイーズに告げ、三人でささやかなお祝いをしようとしたところで、ドイツ兵たちが店になだれこんでくる。
ジャックとアンドレが連行されると、そこには町中の男たちが集められていた。
この中からランダムで人質が選ばれ、鉄道施設を爆破した者が自首しなければ銃殺する、という。
人質に選ばれたのはジャックとアンドレ、保険屋のケンカ友達ティエリー、そしてエミールだった。
土砂降りの中、4人は雑に掘られた泥だらけの穴に落とされてしまう。
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感想
足元は泥で埋まり、降りやまない雨に体温も体力も奪われていく中で、高圧的なドイツ兵らに見下される。
ものすごいストレスと恐怖と怒りを感じさせる演出です。
それが4人の不協和音を呼び、特に皮肉屋のティエリーと若く血気盛んなエミールの衝突は激しいものでした。
しかし、こうした極限状態の中でこそ、登場人物たちの人間性が浮かび上がってきます。
ティエリーの怒りには正義感があり、エミールの暴走にも純粋さがある。
そんな2人の間に割って入りながらも、どこか思いつめた表情を見せるジャックとアンドレ。
自分たちが真犯人であることを言い出せず、他人の命がかかった状況に身を置いているという罪の意識が、彼らの少し落ち着きのない振る舞いの中に滲んでいます。
友情や信頼、そして責任を背負う覚悟――その重さを物語っているようでした。
やがて、ドイツ兵の1人が突如として道化芝居を始めます。
ピエロのような所作で人質たちを笑わせ、混乱させるその行動は、実は彼なりの精一杯の「抵抗」だったのです。
ふざけているように見えるその身振り手振りが、命を救うための決死の行為だったと気づく瞬間、胸が締めつけられました。
その後、ジャックがなぜピエロを演じるようになったのかが、ようやく腑に落ちます。
それは恩人への感謝であり、戦争の記憶を語り継ぐための方法であり、笑いという武器を通して、人間の尊厳を守る手段だったのかもしれません。
あの道化の姿は、ばかげているようで、何よりも強く美しかったのです。
そして印象的だったのが、鉄道夫フェリックスの行動です。
爆破の犯人が名乗り出なければ人質を処刑すると脅されたとき、フェリックスは「自分がやった」と嘘をついて名乗り出ます。
結果、彼は銃殺されてしまう。
命を落とすと分かっていて、若者たちをかばったフェリックスの行動には、まさに無名の英雄の静かな勇気がありました。
ところで、「娯楽が人を救う」という視点は、現代にも通じるテーマです。
近年では、日本の娯楽施設「ラウンドワン」がアメリカ各地に進出し、若者たちの「たまり場」になることで、地域の犯罪件数が減ったという事例があります。
行き場のない時間とエネルギーを、健全な遊びに変えることで、治安が改善されたのです。
人間は、暇をもてあますときこそ最も危うくなる──それは戦時下も現代も変わらないのかもしれません。
『ピエロの赤い鼻』は、戦争の悲惨さを描くと同時に、人間が極限状態でも失わない優しさと誇りを描いた作品でした。
真実を知ったルシアンが、ピエロ姿の父を見つめ直すあのラストシーンには、静かな感動があります。
ジャン・ベッケル監督らしい、哀しみの中にも温もりとユーモアを忘れない語り口が光る一作。
観終わったあと、誰かに話したくなるような、そんな映画です。
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