映画「深夜の告白」あらすじと感想【ネタバレあり】共犯者同士の絆は脆い
1944年公開。
ジェームズ・M・ケインの小説「殺人保険」を、ビリー・ワイルダー監督が、ハードボイルド作家で有名なレイモンド・チャンドラーと共同でシナリオを執筆したサスペンス作品です。
主演はフレッド・マクマレイ。
彼を殺人計画に引き込む悪女を、バーバラ・スタンウィックが演じています。
1940~50年代に作られたモノクロの犯罪映画で、画面が暗い、夜が多い、ファム・ファタール(運命の女。男性を破滅に導く魔性の女、の意味合いが強いです)が登場する、といったフィルム・ノワールの特徴を全部網羅している傑作です。
どういうラストになるのか、まったく分からなくてグイグイ引き込まれました。
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あらすじ
ロサンゼルス。深夜。
保険外交員のウォルター・ネフは、ひと気のないオフィスにやってきた。
同僚の保険調査員・キーズの個室に行き、録音レコーダーに彼へのメッセージを吹き込んでいく。
内容は罪の告白だった。
発端は2か月前。
自動車保険の更新のため、高級住宅街に住むディートリクソンの邸宅に伺ったウォルターは、妻のフィリスに一目惚れした。
モーションをかけても軽くいなされてしまうが、後日また訪問。
自動車保険以外にも、火事や地震などの損害保険の営業もかけるウォルター。
そのときにフィリスから、ディートリクソンの仕事は危険なことも多いので、傷害保険に加入した場合はどういう補填があるのか質問される。
そして夫に内緒で保険をかけられないか、と持ち掛けられてフィリスの狙いが分かったウォルターは怒りを露わにして帰宅した。
しかしフィリスがウォルターの家に夜やってくると、結局フィリスの魅力に抗うことはできなかった。
フィリスは後妻だった。
病弱だったディートリクソンの前妻の看護師として働いていたが、前妻が亡くなり、その後釜に座ったのだ。
結婚してみると分かったことだが、ディートリクソンは金持ちではあるがケチである。
フィリスが洋服やアクセサリーを購入するたび怒り出し、横暴な態度を取る。
そして遺産は、前妻との間の娘・ローラにしか残さないと知り、フィリスはディートリクソンへの殺意を募らせていた。
同情したウォルターは、自身が持つ保険の知識を応用して、フィリスが得をする形でのディートリクソン殺害計画を立てる。
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感想
殺人計画はウォルターの主導で遂行されます。
その間、ふたりは周囲から自分たちの関係を悟られないように、注意深く密会を重ねて実行の手筈を練り上げていきました。
ウォルターのほうは、計画の成功のためにも、なるべく会わないようにしよう、とフィリスに言いますが、すっかりウォルターに夢中になっているフィリスは、我慢できずに会いにきてしまったりします。
ウォルターのほうも、そんなフィリスを愛おしく思うのですが、実行後はさらに彼にまとわりつきます。
罪の意識と、いつバレるかという不安感から、この気持ちを吐露できる唯一の相手・ウォルターに依存せずにいられなくなったのです。
不安を抱えている人は、気持ちを話すことができる数少ない人に密着してきます。
ひとりで対処できる人からは「周囲にバレたくないから離れてて」と思うのですが、ひとりで抱え込むには大きすぎる、と潰されそうになっている人は、自分のことしか見えなくなり、その行動はわざと周囲にバラそうとしているのではないか、というような破滅的な行動をとることがあります。
大それた殺人計画の共犯ではなくても、ちょっとした仕事のミスや、友人同士で目撃してしまったこと、などのささいなハプニングでも、こういったことはあり得ます。
一緒にワタワタと後始末をし、「い、今のは誰にも内緒ね。なかったことにしようね」と、お互いに人差し指を口元に立てて約束したのに、一方が蒸し返してきたり、やおら近づいてきてニヤニヤしたり…
落ち着かない気持ちからのおかしな行動、という点では一緒です。
分かり合える人と一緒にいて安心したい気持ちは分かります。
実際、犯罪者カップルだったボニー&クライドとかの絆の結束は強固で、お互い離れられない関係だったことでしょう。
しかし、相手が自分を裏切らないか、という監視の目にもなっているので、疎ましさはあります。
この作品でも、フィリスに警察からの疑いの目は向けられますが、ウォルターは安全圏にいました。
これ以上彼女と一緒にいては自分が危ない、とウォルターは思いますし、フィリスも「私はどうなるのよ!?」と必死です。
この、互いへの不信感がストーリーの胆で、面白い箇所だったりするのですが、現実で、しかも自分が当事者になると、なんとも居心地の悪い思いをします。
実際の犯罪での共犯関係なら仕方ないですが (まあまず滅多にないでしょうけれど) 、ささいなミスやハプニングなんかは、さっさと自分たちでフォローを済ませて忘れてしまいましょう。
字幕でいちいち訳されてはいませんが、ウォルターはフィリスに向かってやたら “ベイビー” と呼びかけます。
“ダーリン” でも “ハニー” でもなく、ベイビー。
始めのうちこそ、ただの恋人への呼びかけ (それにしてもしつこいな、とウンザリしましたが) だと考えましたが、徐々に精神が不安定になっている彼女を、子供を落ち着かせるのと同じ感覚で “ベイビー” と呼びかけているのかな、と。
そういったことから、ふたりは対等な関係ではなく、ウォルターが上にいる感覚がありました。
とはいえ、こういった恋人同士の呼びかけの種類はいくつもありますが、それで上下関係を表すわけではないので、要は状況と言い方でそう感じた、という話になります。
おそらくウォルターの、フィリスへの気持ちの変化が “ベイビー” という言葉の意味合いを変えさせたのだな、と思いました。
この心境の変化の過程も、観ていて面白かったです。
最後まで退屈しない傑作でした。
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