映画「白いリボン」あらすじと感想【ネタバレあり】悪意からは全力逃走
ミヒャエル・ハネケ監督のドイツ映画です。
「善き人のためのソナタ」のウルリッヒ・トゥクルや、ブルクハルト・クラウスナー、「ピアニスト」でもハネケ作品に起用されたスザンネ・ロータなどが出演しています。
あらすじ
第一次世界大戦勃発直前、ドイツの小さな村で事件が立て続けに起こる。
最初はこの村唯一のドクターが、村の有力者である男爵の荘園で落馬したことだった。
木と木の間に針金が張ってあり、それに馬が足を引っ掛けたことが原因である。
娘のアンナが隣人の助産師に伝えて、ドクターは街の病院に運ばれた。
助産師はその後、自分の知恵遅れの息子カーリを迎えに行く。
その途中で牧師の子供たちに会い、ドクターの様子を訊かれた。
彼らは落馬した現場を見に行って帰りが遅くなり、父である牧師から罰を受ける。
夕食抜きと翌日の鞭打ち。そして腕や髪に純潔の証である白いリボンをつけることだ。
翌日は、男爵の農園で働く小作人の妻が、やはり男爵が運営している製材所で亡くなった。
腐った床を踏み抜いてしまったのだ。
その日、語り部である教師は、牧師の息子マルティンが危険な橋渡りをしているのを見つけて咎めた。
マルティンは暗い顔で「神に自分を殺す機会を与えた」と不穏な言葉を発する。
教師は彼を生について諭そうとするがマルティンの顔は晴れなかった。
帰り道、教師はエヴァという女性と出会う。
男爵家の新しい子守に雇われたという彼女に好意を持った彼は、収穫祭で彼女とダンスを楽しんだ。
しかしその時、男爵所有のキャベツ畑が荒らされているのを発見。
小作人の息子が、母親の死は男爵の過失だと考えて、仕返しにしたことだった。
さらにその夜、男爵の息子ジギが行方不明になる。
ジギは製材所で逆さ吊りにされた状態で見つかった。
剝き出しの臀部を激しく打ち据えられた跡があり、怒りの男爵は翌日の礼拝で、犯人が見つかるまでこの村に平和はない、と宣言して村人たちを震え上がらせる。
この村の大半が男爵からもらった仕事で生活しているからだ。
そしてジギから目を離したことでエヴァは家庭教師と共に解雇されてしまう。
彼女は泣きながら教師を頼ってきた。
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感想
物語は、男爵家・牧師家・ドクター家を中心に、「権力」とそれを取り巻く人々、という様相を呈しています。
権力を持つ人は少なからず威圧や横暴があり、それに抗う人も必ず存在します。
キャベツ畑を荒らした小作人の息子、ジギに暴行をした人、など男爵に表立って立ち向かう勇気はないけれど、彼に対しての鬱憤を晴らそうとしたのでしょう。
男爵夫人はジギの暴行事件の後、子供たちを連れて一度イタリアに避難しています。
彼女もまた男爵その人に不満を持っていました。
男爵のせいで子供が痛めつけられたこと、そしてイタリアでの優しい男性との出会いが彼女に離婚の決心を固めさせました。
嫉妬・憎悪・悪意… そういった空気が渦巻いているこの村から出ていくことにしました。
一度は戻ってきたものの、またもやジギが、今度は家令の息子から笛を取られて池に突き落とされてしまったのです。
村を出る理由としては十分なものですよね。
なのに男爵は事業の拡大をまだしようとしていて…
うん、子供のためにも逃げるのが正解。
そして牧師家もまた、表立って立ち向かえない彼の子供たちの不満が溜まっていました。
それはおそらく他者への危害にいったのだと思います。
はっきり示してはいないのですが、ドクターを落馬させたのも、後にカーリが目を潰されるのも、この子たちの仕業では、と思える描写があるのです。
自分たちのしたことの結果を見に行きたがる、というか。
子供ならではの残酷さの描写がそこここで見られました。
ドクターは、助産師との情事を長年続けていながら、アンナが年頃になりイケない欲望を抱いて助産師を手ひどくフリます。
このフるときの言葉の数々が本当に酷くて…
落馬したときに〇んでれば良かったのに、と本気で思ってしまいましたわ (# ̄皿 ̄)
さんざん罵倒して助産師と手を切った後、本当に娘に手を出す鬼畜。
ドクター、アンナ、助産師、カーリ 全員行方不明になるラストです。
何が起こったのかは結局明かされません。
語り部である教師が村を出るからです。
彼にしてみれば、この不気味な村に留まって真相を知ろうとするより、出てしまうのが一番良かったのでしょう。
私も同じ立場だったら多分そうしたと思います。
一部の権力者が幅を利かせる閉鎖的な村の中で、渦巻く悪意にいつまでも囚われているより、早く出ていきたいと思うのもまた人間の心理。
実はハネケ監督作を観るのはこれで3本目で、最初に観た「ピアニスト」は人生で一番衝撃を受けた映画です。
他人に知られたくないと思っている自分の心の中の恥部・暗部をまざまざと見せつけられて、「もうやめて」と思っているのに停止ボタンを押すことができない、そしてエンドロール後も放心状態となってしばらく動けない、という圧倒的で強烈な体験を初めてしました。
このときほどではありませんでしたが、この作品でも「どこか共感できる」という悪意や憎悪を見て、終わった後に精力を奪われたようにしばし呆けてしまいました。
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