映画「奇跡の海」あらすじと感想【ネタバレあり】信心深さが悲劇となる
1996年に公開されたラース・フォン・トリアー監督作品。
幸せな結婚をしたはずなのに、夫が全身不随になったことで歯車が狂い、歪んだ愛の形が信心深い女性を堕とすところまで堕として、やがて大きな悲劇に見舞われる姿を見せていきます。
非常に痛々しい映画です。
主演のエミリー・ワトソンの演技が光っており、この映画を観たジャン・ピエール・ジュネ監督はヒット作「アメリ」を、彼女主演を想定して書き上げたと言っていました。
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あらすじ
排他的な村で教会に熱心に通うベスは、油田掘削の労働をしている、よそ者のヤンと結婚。
よそ者を嫌う教会の長老たちはこの結婚に冷たい目を向けるが、2人は深く愛し合いいつも一緒に過ごしていた。
しかしヤンは仕事で出稼ぎに出なければならず、しばらく不在に。
ベスは教会に行き “神との対話” をしてヤンの早い帰還を願った。
ベスはいつも神に祈りながら、その神様役も自分でやり、一人二役で会話をして物事の解決を図っているのだ。
ベスの願い通りヤンの帰還が早まった。
だがそれは仕事中の事故で重体に陥ったためだった。
一命は取り留めるが、全身にマヒが残り寝たきり。
病状も一進一退を繰り返し何度も死の淵を彷徨うヤン。
ベスは何度も自分を責めながら献身的にヤンの介護をする。
あるときヤンは薬で朦朧としながらベスに向かって、他の男と寝ろ、そしてその様子を俺に話して聞かせろ、と要求してきた。
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感想
ヤンが言うことには、自分はもう不能でベスを抱くことができない。
だけど他の男とどう抱き合ったかを聞かせてもらえれば、またベスとひとつになった感覚を味わえる、というのです。
おそらくベスはまだ若く性欲も普通にある健康な女性なのに、自分のせいで肉体を持て余すのは気の毒に思ったのかもしれません。
だけど言われたベスはショックを受けます。
男性は抱いた女性の数と質を自慢する、とよく聞きます。
反面、女性は数ではなく、愛情を重視します。
極論すると男性は、誰でもいいから数をこなしたい、という欲望を持っています。
でもできれば外見がいい・仕事や肩書きが華やか、という女性を抱いて周囲に自慢することがステータスになると信じているわけです。
だからベスに対しても「性別による考え方の違い」に思い至らず、数をこなすことを良かれと思って言ったのだと思います。
一方、言われたベスはあまりの衝撃に、なんでそんなこと言うのよ! と激しく泣きわめいてヤンを責めます。
彼女はヤンとしか抱き合いたくないのですから当然です。
女性は愛情で繋がりたがるわけですが、男性が思っている以上に行為は女性にとって負担があるものです。
妊娠や病気のリスクもあるし、痛みがあったり体調がおかしくなることも。
だから女性の場合、数よりも愛情すなわち信頼がおける相手とだけするのが自然なんですね。
だけどヤンにはそんなこと分かりようもありません。
意識朦朧とした中で「頼む…」と子犬のような目で見られたら、ベスも強く出られません。
ベスは他ならぬヤンの頼みと、他の男と寝たくないという自分の意志の狭間に苦しみます。
ヤンの主治医を誘惑してみて失敗して恥をかいたり、バスに乗って見知らぬ乗客に近づいて触ってオエップしたりと抵抗感がありながらも頑張るのですが…
創作した話を聞かせてもウソだと見抜かれ、ちゃんとやれ、と命令されてベスは追い詰められます。
この辺りから、ベスに同情し始めました。
正直ヤンに「妻を追い詰めるのをやめんかい、この鬼畜――!」と殴りたくなります。
寝たきりの人を殴ったらこっちの方が鬼畜になるけど…
そしてヤンが危険な状態になり、なんとかヤンに生きてほしいベスは教会に行きます。
“神との対話” です。
この対話は“神”と名付けた自分の潜在意識との対話なんでしょうね。
本当は、自分はどうしたいのか…
その答えを自分の内側から導き出すための手法なのだと思います。
この対話でベスの心は決まります。
ついにベスは娼婦の格好をしてバーに行き、客の一人と関係を持ちました。
ベスは泣きながら男の揺れに身を任せます。
いくらヤンが命令するからって、そんな… って思いますよね?
だけど好きな男性に命令されたり、その人の生活の面倒をみたりするために風俗で働く女性は多いと聞きます。
軽いところでは住宅ローンの返済のために奥さんにキャバクラで働いてもらうとか。
「リアル風俗嬢日記」という漫画を先日読んだのですが、この著者の方もファッションヘルスに勤め始めたきっかけは、当時好きだった男性の命令だったそうです。
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しかもお給料も全額搾取され続けていたというすごい話で……
(;・∀・) ヒクワー クソオトコ
無理難題を押し付けられても、嫌われたくないと思って無理をしてしまう女性はやはり多いんですね。
そして厄介なのは女性が生まれつき持っている母性本能です。
自分自身以外の誰か弱い存在を守りたい、助けたい、という気持ち。
これは実際に子供を産んでいなくても自然と湧いてくる感情ですが、これをクソお…
いえ、弱い男性は突いてくるんですよね。
ベスを本気で心配する義理の姉ドドは、ベスがヤンの言いなりになって相手かまわず寝ていることを知って引っ叩きます。
「ヤンに感化されちゃダメ! 病人の言うことは影響力が強いのよ!」
このセリフは真理です。
病人の頼みごとを断るなんて薄情なんじゃ… という罪悪感を起こさせます。
病人ではないけれど、好きな男性が弱っている、涙を見せている、落ち込んでいる、という状態だったときに彼が何か頼んできたら、なんとかしてあげたい、と思う女性がほとんどです。
ましてやヤンは腕一本動かすことができない完全寝たきり状態。
ヤンはずるいしベスも愚か。
でも二人の言動は、本能に翻弄されているリアルな男女の姿なのかもしれません。
ドドがこの映画の唯一まともな人であり、客観的に物事を見ていてこの二人の異常な関係を正してくれる存在でした。本来は。
やっぱり第三者の言うことって聞くべきなんですよね。
ベスは天真爛漫ですが、自立していない甘ったれです。
ヤンが仕事に行ってしまうとき、我慢できずに泣きながら離陸寸前のヘリのドアを開けてしまうし、ちゃんとした仕事に就いていたこともないようです。
精神的にまだまだ子供で、誰かに依存していなければやっていけないような女性。
“神との対話”にしても、神様役のときベス自身を厳しく叱責しますが、問題解決では抽象的な表現しかせず、結局自分に都合のいい解釈にしてしまっています。
自分で考えない。
だからヤンの言いなりになってヤンに依存している。
その割にはドドや母親、主治医の苦言には反発して自我を通す。
反抗期と同じで、恋愛に盲目になりすぎて本気で案じてくれる人たちの意見に耳を貸さず、精神も人生も壊していってしまいます。
自分が他の男に身を任せるたびヤンの容体が良くなっていっている、という妄執を信じ込むベス。
つらい思いをするほど神様からの大きな加護がヤンを救ってくれる、と信じて、ついにはどんな娼婦も行きたがらないという、凶暴な男たちが集まっている船に乗り込みます。
「ヤンと神様がすべて」のベスに衝撃の展開が訪れます。
いくら愛していても、彼が弱っていても、自分を貶めてまで要求を聞いてはいけない。
そのためにも依存心は持たず、自立しなければならない。
そんなふうに教えてくれる作品でした。
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