【読書感想】醒めてる純情女子高生 氷室冴子「恋する女たち」
少女向け小説雑誌「コバルト」で連載され、1981年に文庫出版された氷室冴子先生の初期作品です。
シリーズ化が多い中で単発のこの小説は、氷室作品の中では目立たない存在かもしれません。
1986年に斉藤由貴さん主演で映画化されました。
私は後年この映画をDVDで観て、観終わったあと「ああ、いい話だったなぁ」としみじみ感動したことがきっかけで、後に原作を購入しました。
映画では描き切れなかった登場人物たちの心情や行動が丁寧に書かれています。
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あらすじ
「高校時代に得た友人は生涯の友となる」
高校の入学式でこの言葉を聞いて感銘を受けた吉岡多佳子は、2年生になった今、その言葉に懐疑的になっていた。
彼女の主となる友人は二人。
絶世の美少女の江波緑子と、クラス一の秀才・志摩汀子。
緑子には妙な「死に癖」があった。
何かしら失敗して落ち込むことがあると、多佳子と汀子に黒縁を塗った「海のトリトン封筒」を送り付け、自分の葬式に招待するのである。
もちろん本当に死んでいるわけではないが、最初にもらったとき、多佳子も汀子もギョッとした。
今では慣れてきているが、卒業後、おそらく結婚した後もこの死亡通知が届くと思うと、緑子が生涯の友では平凡な人生に波が立つのではないかと多佳子は危惧している。
そして汀子のほうは、頭がいいが故に毒舌で妙に醒めたところがある。
今回の緑子の葬儀にも、二人とも黒のフォーマルドレスを着ていくことにしたが、真っ赤な曼珠沙華なんかを携えて現れるセンスの持ち主だ。
周囲の目も憚らず毒のあるパフォーマンスを平気でやらかす汀子に、多佳子は自分が死んだときは普通に泣いてくれる友達のほうがいい、と感じている。
今回の緑子の死は「失恋」だった。
ずっと片恋し続けていた近所のお兄さんの結婚式が今日なのである。
ミーハー的なあこがれだと思っていた多佳子は、実は真剣な気持ちだったことに内心驚き、軽いイベント気分で葬儀にやってきたことを反省する。
そして帰り道。
今度は汀子から彼氏がいることを打ち明けられた。
まったく知らなかった多佳子は驚き、その顔に汀子は満足した。
今度その彼氏に会わせる、という汀子は、気乗りしない多佳子に「これはアンタへの復讐なんだ」と穏やかでない言葉を伝えた。
意味がわからない多佳子は、汀子と分かれてからムシャクシャした気分で本屋に入り官能小説を購入したところを、同級生の沓掛勝に声をかけられてしまった。
彼は、いつの間にか多佳子の視界によく入るようになっていた存在だった。
感想
全編、多佳子の視点で綴られていきます。
普通の女子高生、というよりは文学少女寄りの彼女ですが、大人しい雰囲気はありません。
大人びた印象はありますが。
齢17にして酒もタバコもガンガンにいき、言葉遣いも他の登場人物たち同様、なかなかに汚い。
友達同士だとこうなるよね~、と自身の高校時代を思い出して苦笑しますが、さすがに酒・タバコはやらなかったな (;^ω^)
そんな飾らない言動のために片恋相手の沓掛くんから「置き屋の遣り手婆」と言われる多佳子。
表面上は笑って受け流し、内心はショックを受ける純情乙女であります。
多佳子自身、いつ、どうして彼を好きになったのか分からず、そのため自分の気持ちを持て余してかなり懊悩する姿が描かれます。
部屋の壁を睨みながら思考の海に没頭するけれど答えはでない。
そんな多佳子に、密かな恋心を持つのが1年生のザキ。
もともと多佳子の姉が家教をしていたときの生徒で「壁を睨んで自分と対峙する」という多佳子の話を聞いて、その強さに惹かれています。
少女漫画とかだったらここで、主人公・多佳子は沓掛とザキとの間で揺れて… となりそうですが、ブレない多佳子に対してザキは押しが弱いので、そういった三角関係的な事にはなりませんでした。
この鉄板通りにはいかないところがこの作品の良さだと思います。
実際、緑子&汀子との関係も、それぞれ勝手に恋をして、友達だからといって相談もすることなく、自分たち自身の考えと行動で進めていく自立心が心地いい。
何かとツルんだり何でもしゃべったりする女子同士の関係と一線を画すスタイルが目新しかったです。
ボッチが怖くて、そして周りからボッチと見られることも怖くて、常に誰かについて行っていた学生時代の自分が恥ずかしくなりました。
この三人は、醜態を晒しちまった、と思えば「やい、しばらく学校で話しかけるなよ」と言ったり、昼休みの読書タイムを邪魔するな、と言って一人で文庫本片手におにぎり食べるような、全員ひとりでいることが怖くない人たちです。
ちなみに多佳子に近づいてきた人物はザキ以外にもいて、美術部員の大江絹子は多佳子に「裸体画を描かせろ」と事あるごとに迫る変態キャラです。
彼女も我が道を往くタイプで、変人であることは周知されているのですが、美術界隈では名を馳せている実力者。
やはり誰かと馴れ合うより自立しているタイプです。
もっとも、所かまわず女体のエロティシズムについて恍惚としながら朗々と長演説するので多佳子を辟易させますが (;´∀`)
この本を読んでから私も意識が変わって「一人でもいいや」と、無理に気が合わない人と一緒にいなくなったし、ボッチ飯にも徐々に慣れていきました。
おかげで余った昼休み時間を勉強に充てて英検準一級も合格できたし、一人での過ごし方、ひいては時間の大切さを学んだ気がします。
そんな精神的に自立している彼女たちの、高校2年の1学期半ばから夏休み終了間際までの短い時間で起こった出来事、そして恋模様をテンポよく描いている良作です。
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