映画「ベティ・ブルー インテグラル」あらすじと感想【ネタバレあり】
1986年公開の「ベティ・ブルー / 愛と激情の日々」に約1時間の未公開シーンを追加した完全版です。
先に公開されたほうは、ベアトリス・ダル演じるベティの印象が鮮烈に残る作品になっているのに対し、インテグラルではジャン = ユーグ・アングラード演じるゾルグにより焦点が当てられ、慈しむ愛の物語になっています。
ヘンなオススメの仕方かもしれないけれど、衝撃を受けたい! という方は「愛と激情の日々」を先に見るのがいいと思います。
ひたすら圧倒されますから。
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あらすじ
海辺のコテージで暮らす、その日暮らしのゾルグの元へ肉感的な女性ベティが転がり込んできた。
蜜月を過ごすが、ある日家主に同棲がバレて、見逃してもらう代わりに区画内のコテージ500軒すべてのペンキ塗りを2人でやるよう命じられる。
そのやりとりを知らないベティは始めのうちこそ楽しんでいたが、ムチャぶりと知って激怒。
家主の車にペンキをぶちまけ仕事を放棄した。
大喧嘩になるが、ゾルグが書き溜めていた自作の小説を見つけて読みふけるベティ。
翌日ベティはコテージを燃やし、二人はパリに行く。
ベティの親友リザが経営するホテルに住まわせてもらい、ベティはゾルグの小説をタイプしてパリ中の出版社に送った。
そしてリザの恋人エディが経営するピザ・レストランで働き始める二人。
しかし女性客の態度に腹を立てたベティは彼女の腕にフォークを刺してケガを負わせる。
ベティは毎日出版社からの返事を確認するけれど、まったく来なくてイライラし通しだった。
本当は来ていたのだが、実はゾルグが先回りして隠していたのだ。
内容は酷評のものばかり。
これをベティが見たらキレて暴れることが分かっているからだ。
だけどある日、そのうちの一通をベティに見られてしまい、怒ったベティはその編集者の家まで行き散々怒鳴り散らした上またもケガを負わせて告訴される。
ゾルグは告訴を取り下げさせるためにその編集者を脅してベティを救い出した。
そんな折エディの母が亡くなり、憔悴しきったエディをみんなで故郷まで送る。
エディの母はピアノ店を経営していたが、エディはゾルグたちに家と店舗を任せた。
始めは上手くいかなかった経営も少しずつ売れるようになり、車を買って、ベティへのプレゼントとして土地まで購入。
何もかもうまくいきそう、とゾルグは考えた。
ある日、ベティに運転させるとかなり危険な行為ばかりしてゾルグは叱り飛ばした。
ベティは不貞腐れて車から降りて歩いて帰宅。
別々の部屋でそれぞれ過ごしていたが、ベティが見ているテレビの音がうるさいのでゾルグが戸を閉めると、ベティはゾルグがいるキッチンにやってくる。
冷蔵庫を開けて、また元の部屋に戻るかと見せかけるが、キッチンを出てから拳でガラス戸を破って流血する。
慌てて手当しようとバスルームに連れていくゾルグに激しく抵抗して、外に駆け出していった。
ゾルグも後を追い、ようやく追いついたところで警察に見咎められてしまう。
その後ベティは妊娠検査薬に陽性反応があったことを喜んでゾルグに伝える。
ゾルグもまたベビー服を買ってきたりして喜んでいたが、結果は陰性。
ベティのショックは相当なもので、精神の崩壊を引き起こして破滅に向かっていく。
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感想
家主の車にペンキをぶちまけた後、ベティはゾルグに向かって「尊敬させてよ」と叫びます。
理不尽なムチャぶりをしてくる家主に口答えひとつせず頭を下げるゾルグを、まだ19歳で世間知らずのベティは情けなく思ったのでしょう。
悪に屈したくないという正義感が暴力という形で出るベティにしてみると、懐柔させようとするゾルグは弱くて情けなくて尊敬できない、というわけです。
恋愛において「尊敬」は重要な位置を占めると思っています。
どんな部分を尊敬するかは人それぞれですが、尊敬できる部分がないと恋愛感情を持つことはまずありません。
ただ尊敬=愛とはならないところが難しいところですけどね(;^ω^)
そんな情けないゾルグに頭にきたベティは怒りの赴くままにゾルグの私物を窓からボンボン投げ捨てます。
呆れて構わずにいたゾルグですが、ある箱を捨てようとしたときに強く止めました。
中身はゾルグが書いた小説。
ベティは捨てるのをやめて一晩中読みふけります。
20冊くらいあるノートの小説を一気に読むんですから、ベティにとってはすごく面白かったんでしょうね。
これまで毎晩激しく愛し合い、それ以外の時間もイチャついてた戯れの関係でしたが、ここで初めてベティはゾルグに対して尊敬の念を持ったんだと思います。
定職についていない貧乏だし、ベティ自身もウエイトレスの職を辞めて電車賃すらないからゾルグを頼った。
だから好きでも一時の関係で終わると考えていたけれど、作家としての才能をゾルグが持っていたことで長期的な関係が視野に入ってきたのではないかと推察します。
「小説を書くためにここに住んでいたのね」というセリフで、やはりゾルグがのらくら暮らしていることを歯がゆく思っていたのかと。
その後のベティは家主に「彼は偉大な作家よ!ペンキ塗りなんかさせんな!」と言って2階から突き落としたのを皮切りに、事あるごとに人にゾルグがいかに優れた作家か吹聴して回ります。
常軌を逸した行動もとりますが、ゾルグを世に出したい気持ちはわかります。
ただ邪推かもしれませんが、そこには作家夫人を夢見ていた部分も感じ取れて、本当にゾルグへの純粋な愛だけではなかったのでは… と考えるのです。
このあたりが尊敬=愛だと二人が無意識に勘違いしていた部分であり、恋愛における心の動きの難しさだと思っています。
「存在しない何かを求めている」
結局妊娠していなかったことで元々精神が不安定だったベティは徐々に崩壊していきます。
元気づけるためにリザたちと一緒に来た川遊びのときにエディに伝えた、ゾルグのベティ評です。
あると思っていたゾルグの才能。
お腹の中に存在していると思っていた赤ちゃん。
いずれも目に見えない何かであって、届きそうで届かないものでした。
もう現実を見たくなくて、ついにベティは自分の目を抉って入院します。
このゾルグのセリフを聞いたとき、原阿佐緒という明治・大正時代の歌人を思い浮かべました。
山崎洋子さんの本によると、男といるときはそこにいない子供のことを思い、子供といるときは男のことを考えているような人だったそうです。
目の前の現実に目を向けるより常に夢見心地の状態を好む女性。
移り気… なのかなぁ、と漠然と考えました。
だけど「魅せられて」の歌詞に、他の男に抱かれていても違う男の夢を見る、とあるように、現実と違う別世界に意識が飛ぶことは、なにも特別なことではないのでしょうね。
ただベティは現実にしたくてもがき苦しみ、生来の気性の激しさから崩壊に至った。
そこに哀しさを感じます。
この作品はメインがたった二人なのに恋愛のいろんな形が凝縮されています。
エゴイスティックだったり、献身的だったり、母性愛・父性愛が前面に出ていたり、性愛に流されたり、純愛を突き詰めていたり……
相反する形がすべて見えてきます。
見れば見るほど新たな考察が生まれてくる映画です。
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