映画「イル・ポスティーノ」あらすじと感想【ネタバレあり】無名も時に有名に勝る
実在の詩人パブロ・ネルーダが南イタリアに亡命したときの記録を映画化した作品です。
パブロ役をフィリップ・ノワレ。
彼に影響を受ける主人公を、脚本にも参加したマッシモ・トロイージが演じました。
トロイージは重い心臓病を患いながら撮影を優先し、撮影終了した半日後に亡くなりました。
よって彼の遺作になります。
あらすじ
1950年代前半。
南イタリアにある小さな島で暮らすマリオ。
一緒に暮らす父は彼が漁師になることを望んでいるが、読み書きができるマリオは肉体労働に従事したくなかった。
そんな頃、チリの有名な詩人パブロ・ネルーダがこの島にやってくる、という。
共産党員のパブロは、チリ政府から逮捕状が出ており、亡命先にこの島を選んだのだ。
思いがけない有名人の来訪に、島民は沸き立った。
パブロは歓迎され、女性たちにもモテモテだ。
マリオには羨ましい光景だった。
翌日、マリオは郵便局の求人に応募。
読み書きが出来、自転車も持っているので、郵便配達員として即採用された。
配達先はただ一つ。パブロの家である。
世界中からの手紙や贈り物を、山の上の一軒家に届ける仕事はそれなりに大変だった。
だけど美しい妻と仲睦まじく、世界中からラブレターが頻繁に届くパブロに羨望しているマリオは、本にサインを書いてくれるように頼む。
有名な詩人と友達だと自慢すれば、自分も女性にモテるはず。
そう考えるマリオだったが、サインには自分の名前を書いてもらえず、当たり障りのないメッセージが書かれてあるだけだった。
ガッカリするマリオだが、パブロが詩作をしているところを見て、自分も真似してみることにする。
パブロに相談すると、比喩の使い方を指摘された。
それ以来、マリオはパブロと島のいろんなところへ一緒に行き、情景を比喩で喩えるようになる。
ある日、開店前の居酒屋で、そこの看板娘ベアトリーチェにマリオは心を奪われる。
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感想
読み書きは出来るけれど、マリオは学が足りない青年です。
基本的に考えていることは女性にモテたい、ということばかり。
パブロのサインや詩作も、そのための手段と考えています。
だけど素直で純粋な性格のため、次第に詩作自体を楽しみ、パブロ自身に魅力を感じて一緒にいるようになりました。
パブロもまた、そんなマリオを好ましく思い、ふたりは親友とも言える間柄になります。
無学なマリオは自分の詩に自信がありませんでした。
そのため、ベアトリーチェに捧げる詩を作ってくれ、とパブロに頼んできます。
一目惚れしたその日に言ってるので、パブロはまだベアトリーチェに会ったことがありません。
知らない女性のことを書けるか、とパブロは怒ります。
しかし、録音機に声を吹き込むとき、パブロが「この島で最も美しいものは?」と質問すると、マリオが「ベアトリーチェ」と答えたことで、パブロはこの恋に協力することにしました。
この島には美しい海があり、島全体の景色も美しい。
親切にしてくれる島民たちの心も美しい。
それが亡命中のパブロの心の癒しになっていました。
だけど、それら全てをそっちのけてベアトリーチェを最も美しい、と言い切るマリオに感銘を受けたのです。
パブロの協力もあり、情熱的な詩を作ったマリオはベアトリーチェと結婚することができました。
しかしその結婚式で、パブロとの別れを知らされます。
逮捕状が撤回され、チリに帰郷することができるようになったのです。
喜びと悲しみが同時にやってきたマリオの心境は複雑だったかもしれないですね。
唯一の配達先であるパブロがいなくなり、マリオは失業になります。
だけどパブロが最後に渡そうとしたチップを頑なに断りました。
無職になることが辛いのではなく、親友がいなくなることのほうが辛い、という意志表明だったのでしょう。
そして荷物のほとんどを置いて行くこの家の管理をパブロがマリオに頼むと、誇らしげに請け負いました。
その後マリオは居酒屋を手伝いながら、パブロの動向を新聞で知っていきます。
しかしどのインタビューでも、自分のことに一言も触れていないことに寂しさを覚えました。
ようやく初めて手紙が来て喜んだのも束の間、あの家に置いてきた荷物を送ってほしい、というパブロの秘書からの事務的なもの。
詩人として、共産党員として忙しく動き回っていたパブロにとって、マリオは親友というより「一時だけ仲が良かった友人」でしかなかったのかもしれません。
距離が離れると、連絡はなくなっていき、疎遠になる。
よくあることではありますが、マリオの寂しさと哀しみが伝わってきて、胸が痛みました。
マリオは哀しみを振り切るように、録音機にいろんな音を入れていきます。
海の音。鐘の音。そして胎動の音。
比喩を使わず、言葉にもせず、ただその事象そのものの音だけを「作品」と称して入れていきました。
数年後、パブロが妻とともに再び島を訪れたとき、マリオは亡くなっていました。
共産党大会で、赤狩りによる暴動に巻き込まれて命を落としたのだとベアトリーチェは話します。
その大会でマリオは、パブロに捧げる詩を詠む予定でした。
しかしその詩を書いた紙も、暴動の中で踏まれて破れて、紛失してしまいます。
この映画タイトルは「郵便配達員」です。
マリオは詩人になろうとしていましたが、結局そうなることが出来なかったことを表わしているタイトルに思えました。
だけど郵便配達員だったからこそ、パブロと交流を持てて新しい世界を開こうとしていた。
有名人になれなかった、夢を追っていた普通の一般人の人生。
それでも一生懸命に生きた彼の、録音機に遺された「作品」を聞きながらパブロは涙を浮かべます。
彼との交流を絶ってしまったことへの後悔だったのかもしれません。
ただの「郵便配達員」でしかなかった一般人マリオは、有名人パブロの心に深く印象を残す存在になりました。
有名人=すごい、えらい。
一般人=凡庸。
こういった印象が世間的なイメージになると思いますが、有名人に多大な影響を与える一般人、というのは少なくないのかもしれません。
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